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地球温暖化めぐる歪曲と暗闘(2)

2009年12月27日   田中 宇

 12月19日に閉幕したコペンハーゲンでの国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP15)は、世界のほとんどの国の代表らが2週間も話し合い、事前に何百ページも文書が用意されていた。だが、閉幕時に採択された「コペンハーゲン合意」はわずか2ページで、しかもこの文書すら各国間で合意に達せず、各国が留意する(take note)という決議にとどまった。 (Copenhagen Accord

 合意文は、世界の平均気温の上昇を2度以内に抑えねばならず、膨大な二酸化炭素などの排出削減が必要で、先進国は97年の京都議定書に従って削減を進めねばならないと定めているが、京都議定書を超える排出削減を何も決めていない。合意文書には付属文書がついているが、それは2020年までの国別の排出削減量の一覧表の「枠」だけだ。中身は空っぽで、今後決めることになっている。時間切れの中、合意文書は草案のまま発表され、COP15は閉幕した。 (Marathon turns into merely `a first step'

 会議中、コペンハーゲンは連日雪が降った。「温暖化」を協議するはずの各国参加者がセキュリティシステム不調で会場に入れず「極寒」の屋外で寒さにふるえながら何時間も行列して待つという、懐疑論者をニンマリさせる逆説的な事態も起きた。合意を決議した最終日には米国や東アジアが寒波に襲われ、米国のオバマ大統領は調印式も出ず、歴史的な大雪で死者が出た米東海岸に戻った。日本では、北海道の芽室などで12月の観測史上最低気温を記録した。 (Obama claims partial victory in Copenhagen

 11月末、国連の専門家会議(IPCC)で温暖化対策を推進する中心的存在だった英国のイーストアングリア大学の気候研究所(CRU)で、世界の気候変動のデータに歪曲的な処理がほどこされていたことが、ネット上での情報流出によって暴露される「クライメートゲート」が起きた。暴露されたメールの束の中には、今年10月にBBCが「地球の平均気温は上昇していない」と報じた件で、在米の研究者(Kevin Trenberth)が報道された気温降下を事実と考え「われわれの気候変動データは間違っており、観測方法が不十分だった」(the data are surely wrong. Our observing system is inadequate)と書いているものもある。IPCCの中心だった英米の専門家たちも、地球の気温が上がっていないことを自覚しているわけだ。 (Subject: Re: BBC U-turn on climate) (What happened to global warming?

 地球の気温が上昇していないとか、人為が気候変動の主要因ではないという指摘は、あちこちから出ており、各国は「温暖化対策」を協議する前に「本当に温暖化しているのか」を協議(というより観測・再分析)せねばならない。COP15で温暖化対策について何も決まらなくても何の問題もなく、むしろ世界的な時間と労力と費用の無駄遣いだったといえる。 (Climate Change Is Nature's Way

▼明らかになる温暖化捏造のからくり

 ロシアの経済研究所は最近、英CRUが温暖化を「立証」した際、ロシアの観測地点のうち、20世紀末に温暖化傾向を示していなかった地点の気温データをすべて排除し、ロシア全体の25%の観測地点の気温データだけを使って、ロシアの気温が上昇しているかのような歪曲的な結果をCRUが出していたことを指摘した。ロシアの全データを使って分析すると、20世紀半ば以来のロシアの気温は上下し続けるだけで、上昇傾向を示さない。 (Russian weather data cherry picked by UK climatologists - report) (Russians confirm UK climate scientists manipulated data to exaggerate global warming

 オーストラリアの研究者も、CRUが豪州の温暖化を「証明」するために、都市化によって平均気温が上昇する豪州の都市近郊などの観測地点(豪全体の40%)だけを選んで使い、それ以外の気温データを「不適切」として排除し、温暖化傾向を捏造したと指摘している。CRUの詐欺手法が、世界的にしだいに明らかになっている。 (Climategate: Australian records under scrutiny

 IPCCは「ヒマラヤの氷河は2035年までに溶ける」とする報告書を以前に出していたが、これは実は「2350年までに溶ける」と書くべきところを誤植してしまっていたと、今ごろになってIPCC関係者が暴露している。2035年氷河溶解説は、各国のマスコミが「事実」として大きく報じ、先進国の政府は、緊急な温暖化対策の必要性を「啓蒙」する象徴的な事象として、この件を繰り返し広報してきた。 (The Real Copenhagen Agenda

 クライメートゲートの暴露後、温暖化捏造の主犯であるCRUの「親分」にあたる英国気象庁(MET)は、CRUを弁護すべく、07年のIPCC報告書を根拠に「温暖化人為説はすでに事実として確立している」と発表した。だが、同報告書をまとめた中心勢力はCRUだった。裏を返せば、英政府は、捏造の疑いがあるCRUの分析以外に、温暖化の証拠として挙げられるものがないということだ。 (Climategate Outrage Explodes As Carbon Tax Agenda Collapses

 米国ではNASA(航空宇宙局)が英CRUと歩調を合わせ、以前に「地球史上、最も暑かったのは1998年だ」と発表したが、米国の学者から「その結論を出した元データを公表せよ」と要求された後、元データを公表しないまま「実は1934年の方が暑かった」と訂正し、その後また「98年と06年が最も暑く、34年がその次だった」と再訂正する迷走を続けている。CRUでの暴露を受け、NASAに対しても元データ公表の圧力が、外部の学者から再び強まっており、捏造スキャンダルは米国に飛び火しかねない。 (Researcher: NASA hiding climate data

 政治圧力の結果なのか、検索エンジンのグーグルが、クライメートゲート関係の文書が検索結果一覧の中に出てこないようにしてしまったという指摘もある。 (Climategate: Googlegate?

▼実は重要だったCOP15

 地球が温暖化していないのに、世界のほとんどの国の代表が集まって温暖化対策会議を開いたことは、確かに無意味であり、壮大な無駄遣いだ。合意文は「誰にも好かれない文書」と揶揄された。だが、もう一つ深く掘り下げてみると、実はCOP15は非常に重要な会議だった。それは、以前の記事「新興諸国に乗っ取られた地球温暖化問題」に書いた「世界政府作り」の面である。 (◆新興諸国に乗っ取られた地球温暖化問題

 全12項からなるCOP15の合意文書の9項に、先進諸国が発展途上国の温暖化対策のために資金や技術を提供し、その資金(Green Climate Fund)の財源や使途を決めるために国際的な高官協議体(High Level Panel)を設立する、と書いてある。先進諸国の政府財政から十分な資金を集められない場合、他の資金源を作る必要があるが、その決定も高官協議体が行う。 (Copenhagen Accord

 最終合意には詳細が盛り込まれなかったが、COP15の議論の中で出てきたのは、先進諸国が毎年1000億ドルの資金を用意し、それを途上諸国の温暖化対策の費用にあてる構想だ。先進各国の政府が出す資金を全部集めても、この半分にもならないので、残りは民間経済に対する課税として集める。課税方法として最有力なのは、全世界の国際金融取引に対して微少な比率の課税を行う「トービン税」である。 (Marathon turns into merely `a first step'

 従来の世界では、税制はすべて国ごとに別々で、トービン税に象徴される世界的課税は史上初めてである。国際課税は、当然ながら国際的な高官協議体で決める必要がある。実は、すでにトービン税については11月のG20会合で、英国(今年の主催国)の発案で議論されている。COP15の合意文書に盛り込まれた「高官協議体」とはG20のことである。(私は最初、英国が財政破綻寸前の自国を救済する仕掛けとしてトービン税を提唱したのかと思ったが、そうではないようだ) (Brown floats idea for global tax on banks

 COP15の議論では、国連機関であるIMFと世界銀行が、先進国政府からの支援金やトービン税収を受け取って管理する構想が話し合われた。昨年G20が世界経済の中心的な意志決定機関として台頭して以来、IMFと世銀は、G20の金庫番として機能する傾向を強めている。つまり、COP15の議論の本質は、先進諸国の援助金とトービン税によって、G20と傘下のIMF世銀が巨額の財政を持ち、温暖化対策を名目に、途上国に資金を分配する権能を持つことである。 (Copenhagen Accord Establishes Global Government Framework

 使途が「温暖化対策」に限定されているものの、人類史上初めて、世界各国の首脳が集団で意志決定する機関が、直接民間経済に課税して財源を持って活動する(既存の国連は、各国からの上納金が頼りで、独自の財源を持っていない)。これは、史上初の「世界政府」の出現である。10月に「G20は世界政府になる」という記事を書いたが、そのとおりの展開になってきた(温暖化問題が使われるのは私にも意外だったが)。 (G20は世界政府になる

▼中国や途上国の利得になる温暖化問題

 COP15で出てきた世界政府構想は、表向きは地球温暖化対策のためである。だが、米国の中枢的な世界戦略立案機関である外交問題評議会(CFR)からは、すでに今年夏に「COP15で包括的な条約が締結される可能性はほとんどゼロだが、温暖化対策に限定せず、環境問題全般やも途上国の経済発展の全般をテーマに含め、目標を拡大すれば、有効な枠組みになりうる」との主張が出ている。COP15で構想された新体制が、環境や発展の全般に拡大されれば、それは世界政府そのものになる。 (Copenhagen's Inconvenient Truth

 今後、中国やインドなどBRIC諸国が高度経済成長を続けそうで、いずれ中南米や中近東、アフリカ諸国も高度成長に入る可能性があるが、それは世界の中産階級人口の爆発的な増加となる。省エネや産業効率化、環境対策、農産物の増産などを従来に増して強化しなければ、エネルギーや資源、食糧の高騰や、公害の悪化が耐え難くひどくなる。BRICの中心である中国の経済有力者(中国建設銀行の郭樹清会長)は最近、経済発展にともなって省エネや産業効率化、環境対策の強化が中国に必須だと提唱している。 (Growing China Guo Shuqing on the need for reform

 地球温暖化問題はもともと、英国が主導する先進国が、中国など新興諸国・途上国の経済成長に「排出税」を課してピンハネする策略だ。中国は、途上諸国を誘い、COPによる温暖化対策に反対してきた。しかし、COPが省エネや環境問題の全般にテーマを広げ、意志決定に中国や途上国も参加し、先進国が途上国のために資金を用意してくれるなら、中国や途上国にとって反対すべきものから賛成すべきものに転換する。

 この転換は、中国や途上諸国だけでなく、日本やEUにとっても重要だ。従来のピンハネ構造の温暖化対策では、日本と中国は敵であり、EUとアフリカは敵だったが、今後立ち現れてきそうな途上国支援の温暖化対策では、日本やドイツの環境技術が中国やアフリカの人々の生活向上の役に立つ。発電機能としてほとんど無意味な「風力発電」など、イメージ先行のいかがわしい構造も消えていくだろう。

 日本の外務省は、温暖化外交に熱心で、従来これは対米従属(米英中心主義への従属)の戦略だった。だが今後はしだいに中国や途上国(多極主義)のための戦略に衣替えするだろう。外務省は隠然と多極化に対応し、生き残りを模索しそうだ。

 英米学者による地球温暖化理論の捏造が暴露されたクライメートゲートについて、米欧日のマスコミはほとんど報じていない。この件は「911自作自演説」や「米政界はイスラエルと金融界の支配下にある」といった件と同様、報じられないがゆえに「事実」とみなされず「陰謀論」の領域に置かれている。しかし、すでにインターネットには多くの情報が出ており、今後しだいに多くの人が温暖化を捏造と知覚する方向に事態が動くだろう。人々が温暖化の捏造に気づくほど、COPの体制は不要だという話になるが、そのころには、COPで作られたG20とIMFなどの「世界政府」の構図は、温暖化対策に限定しない広範な「途上国支援体制」へと変化しているだろう。

▼排出削減するふりで談合した米欧中印

 温暖化問題をめぐる最近の動きを見ていると、米国やEU、中国が絡んだ、隠れ多極主義的な「新世界秩序」作りという感じがする。米国とEU、中国は、COP15が「ピンハネ構造」を「途上国支援型」に転換させる会合になることを自覚しつつ、演技として激論を戦わせてきた観がある。 (Let the Copenhagen wealth transfer begin

 COP15の合意に排出削減義務の数値化が盛り込めないことは、10月末のEUサミットが数値化の盛り込みに合意できず、拘束力の薄い政治声明(曖昧な努力目標)しか合意できなかった時点で、すでに決まっていた。温暖化対策に積極的なEU諸国が合意できない限り、世界的合意は無理だった。ドイツのメルケル首相は10月31日に「COP15では削減義務を盛り込めない」と表明した。 (Merkel: no chance of Kyoto-style agreement at Copenhagen

 11月末には、オバマ大統領も訪日後に参加したAPECサミットがシンガポールで開かれたが、そこでも米中やインドが削減義務の数値化に反対を表明した。APECには、COP15主催国デンマークの首相が飛び入り参加し、COP15で国別の数値目標を掲げず政治声明のみ決議することを提案し、米中インドや日本の同意を得た。この時点で、G20の大半の国々が、COP15で曖昧な政治声明だけ出すと合意したことになる。 (Copenhagen climate summit hopes fade as Obama backs postponement

 その後、米中インドは、自国の排出削減の「努力目標」を、個別に相次いで発表した。各国は、従来表明していた目標値より削減率がさらに大きい目標をそれぞれ発表したが、この動きの裏には「COP15では各国の履行義務をともなう条約は、模索するふりだけで、実際には締結されない」というAPECでの密約的談合が存在していた。 (China Joins U.S. in Pledge of Hard Targets on Emissions

 そして、12月初旬にCOP15が開幕すると、米国は「中国が自国の排出削減目標を達成するかどうか、国際的な監視団を派遣して監視する必要がある。それができなければ、米国も自国の削減目標を守らない」と言い放った。米国は、中国と自国の削減目標が談合的な茶番の産物だと知りながら、中国に言いがかりをつけ、米中が世界の中心で対立している構図を作った。茶番の上に茶番を重ねたのである。 (China and U.S. Hit Strident Impasse at Climate Talks

▼多極化を象徴する大混乱の議論

 中国は「G77」という、150カ国以上の発展途上国が参加する国際組織を率いる形でCOP15に参加した。米中の言い合いは、先進国を率いる米国と、途上国を率いる中国という世界対立の形をとった。12月18日、議論の最終日にコペンハーゲンに到着したオバマは、同日に到着した中国首相の温家宝と会談し、米国と中国が2者会談して「世界の最重要事項」である温暖化対策について決定する「米中2国覇権(G2)」の構図を演じて見せた。その上で、事前の談合どおり、曖昧な政治声明のみの数値義務抜きの合意が発表された。 (Obama's Copenhagen Speech: The Collapse Of A Deal?

 中国はオバマが11月の訪中時に提案した「米中G2」の構想を明確に拒否したが、コペンハーゲンのどさくさの中で、オバマは中国にG2の相棒を演じさせてしまった。私が以前から指摘している「覇権のババ抜き」の構図である。中国は、自国がそれほど大きな役割を演じることになると予測せず、自国代表の記者会見場として狭い部屋しかおさえていなかったので、会場に入りきらないほど多数の記者がやってきて大混乱となった。米大統領の広報官は「米国の記者が全員入れないなら、米政府はCOP15自体を放棄して帰国する」と周囲が仰天(失笑)するような脅しを発しつつ、中国人記者を押しのけて米国人記者を中国政府の会見場に入れようとしたが、全員は入れられなかった。 (Obama claims partial victory in Copenhagen) (行き詰まる覇権のババ抜き

 COP15の最終日、主要各国が最後の演説をして、合意文の採決が行われた。演説では米国や中国、ブラジルなどの首脳が、口々に自国の積極的な排出削減目標を自慢したが、これらの諸大国は、曖昧な政治声明しか出さないことを事前に談合しており、各国は実施するつもりのない目標を自画自賛する茶番劇を繰り返し、米国とブラジルは互いに相手を批判した。(日本政府が発表した大幅な排出削減目標も、各国が真摯な努力をした場合に実施するという条件がついており、国際茶番劇の一端を担っている) (No U.N. deal on carbon cuts, last day of talks

 COP15の議論の中では、ベネズエラのチャベス大統領や、スーダンの首脳らが、G77の主要メンバーとして「先進国が途上国に巨額資金をくれると約束しない限り、合意に調印しない」「融資ではなく、返済義務のない贈与でなければならない」などと大騒ぎした。これらの国々は、温室効果ガスの排出量が少なくCOP議論の中で重要でない上、反米主義を掲げる諸国だ。先進国からは「何であんな奴らに言いたい放題にさせるのか」という批判が出たが、反米諸国が声高に主張し、それをBRICの非米大国が取りなしつつ米国に譲歩を迫り、結局は反米非米諸国の主張が通った。 (Developing Countries Say `No Money, No Deal' in Climate Talks

 これはまさに、以前に書いた「国連を乗っ取る反米諸国」の構図である。最近の国際社会では、イスラエルを「悪」に、イランやアラブを「善」にする善悪転換の動きも、同様の反米非米諸国の主導で進んでいる。この多極的な新世界秩序は、今後さらに明確化するだろう。BRICや途上国の発言力が強まり、先進国の中でもEUや豪州、カナダなどは、多極型の新世界秩序に沿った戦略に移行しそうだ(小沢一郎主導の日本も)。先進国(旧G7)の団結は崩れる。FT紙は「もしCOP15が、今後の多極的な世界(the new multipolar world)を象徴する出来事であるなら、今後の世界は混乱したものになる」と書いている。 (The old world order is melting away) (国連を乗っ取る反米諸国

 COP15の合意文は草案のままで、可決もされず「各国が留意すべき文書」にすぎない。各国の排出削減義務量を決める件は、各国の利害が衝突して全く決まらない。しかし、排出削減量の未決をしり目に、高官協議体(G20とIMF)が温暖化対策費の名目でトービン税を世界に課税する「世界政府化」の件は事実上合意された。来年は韓国が主催国となるG20サミットなどで、この件の具体化が模索される可能性が高い。 (The challenge of Seoul's G20 chairmanship

▼プロパガンダの構図を乗っ取る

 米英中心体制の永続化のための策略だった地球温暖化問題は、いつの間にか、世界を多極化することに貢献している。この転換は、911からイラクとアフガンの占領失敗への流れと、本質的に同じものである。911事件によって世界は、米英イスラエルが主導する恒久的な「テロ戦争」という強化された米英中心体制になった。

 しかし、米中枢の政策集団であるネオコンの人々が、テロ戦争の体制をもっと強化すると言いつつ、米軍をイラクに侵攻させて占領の泥沼に沈め、アフガン占領もNATO(米欧同盟)を解体させかねない窮地に陥り、テロ戦争は強化されすぎた挙げ句、イスラエルを潰そうとするイスラム主義勢力の人気を高めてしまい、弱体化した米英は、中露など新興諸国側の意見を重視せざるを得なくなっている。

 地球温暖化問題と、テロ戦争・イラク戦争とのもう一つの類似性は「プロパガンダ」の動員である。米欧日では、地球温暖化についてマスコミに歪曲的な報道を続けさせる隠然とした力が働いており、温室効果ガス排出削減の必要性は「無誤謬の真実」とされている。同様に「911はアルカイダの犯行」というのもマスコミでは無誤謬の真実とされ、イラク侵攻時には「フセインは極悪だ」というのも無誤謬の真実として報じられた。これらに疑問を差し挟む言論人は、米国でも日本でも、マスコミから締め出された。

 だが最終的に、イラク侵攻ではフセインは大量破壊兵器を持っていなかったことが確定し、温暖化問題ではCRUの捏造が暴露され出している。911・テロ戦争についても、先日BBCが「アルカイダは実際に存在しない組織だ。1993年に起きたニューヨークの爆破テロ事件の裁判で犯人をでっち上げねばならなかったFBIが、容疑者の出鱈目の供述を根拠に、アルカイダというテロ組織があるという話を捏造して以来、アルカイダはFBIやCIAにとって便利な敵として使われ続けている」とするテレビ番組を作るなど、隠されてきた構図が見え出している。 (BBC now admits al qaeda never existed

 私の推測では、ネオコンはイラク侵攻によってテロ戦争を失敗させる意図が最初からあった。温暖化問題が米英中心主義の道具から多極主義の道具に転換したのも、米欧中枢に意図的に転換を起こした人がいた結果である。プロパガンダの機能を握るのは軍産複合体(米英中心主義者)だが、マスコミに対していったんプロパガンダ戦略が発動されされたら、簡単には止められないし(マスコミ人の多くはプロパガンダを信じ込んでいる)、方向転換も難しい。隠れ多極主義者たちは、このプロパガンダの特性を生かし、プロパガンダ戦略の操縦席を米英中心主義者の手から隠然と乗っ取った上で、やりすぎや混乱を引き起こしつつ、米英中心主義のためのプロパガンダを、いつのまにか多極主義のためのプロパガンダに転換する策略をやったのだろう。

 これは、テロ組織に入り込んだ捜査官が、犯人検挙とは逆に、躊躇するテロ組織の他の人々を扇動してテロをやらせてしまうという、911・テロ戦争に際しての米英イスラエルなどの諜報機関の手口の逆をいくものである。

 温暖化人為説を無誤謬の真実と報じるマスコミのプロパガンダは今後も続くだろうが、今後の歪曲報道は、むしろ世界を米英中心体制から多極体制に転換させることに貢献してしまう。米英中心主義者が「それはプロパガンダだから報じるな」と叫んでも、陰謀論者扱いされ、無視されるだけだ。諜報の世界はドラマチックに奥が深い。

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