他の記事を読む

茶番な好戦策で欧露を結束させる米国

2015年3月17日   田中 宇

 ロシアと独仏の首脳たちの外交努力で2月12日にミンスク(ベラルーシ)で締結されたウクライナの停戦合意は、1カ月経った今も、わりとうまく機能している。2月21日、合意に盛り込まれていた捕虜の交換が始まり、戦場からの兵器の撤去も始まった。米国とウラクイナの高官らは、ロシアが停戦合意を破って親露派への軍事支援を続けていると言い続けているが、根拠を示していない。独仏や停戦監視団(OSCE)は、そのような事実がないことを確認し続けている。 (Ukraine crisis: Prisoner swap boosts ceasefire) (Ukraine conflict: Russia's Vladimir Putin says war 'unlikely') (Putin: E.Ukraine situation difficult, at least cities not being destroyed

 戦場からの兵器撤去は順調に進み、3月5日に撤去作業の第2段階(152ミリ砲を境界線から70キロ後退させることなど)が始まった。ドイツの外相は3月9日、ウクライナで停戦が機能し、戦闘が劇的に減ったと発表した。ウクライナの大統領も、親露派が停戦合意にしたがって戦場から武器を撤去したことを認めている。停戦を遵守する親露派と対照的に、ウクライナの極右は停戦など認めないと息巻いているが、極右の政治力は縮小している。 (Ukraine starts second phase of heavy weapons withdrawal) (Officials Confirm: Ukraine Ceasefire Is Holding) (Ukraine Ceasefire Holding, But Poroshenko Still Complaining

 英ガーディアン紙は2月末、市民運動体(Bellingcat investigative group)が出した報告書をもとに、露軍がウクライナ領内に向けて越境砲撃しているとする記事を出した。だが、この記事を書いた外部の市民記者(Eliot Higgins)が、記事のもとになった報告書の筆者でもあり、事実に裏付けられていない報告書に書いたうえ、それを引用して記事を書く自作自演をやったことが発覚した。ガーディアンは記事がインチキであることを認めて削除した。 (Guardian Retracts Anti-Russian Story Based on 'Research' of Own Reporter

 ウクライナの世論は厭戦機運が高いままだ。徴兵を拒否した者がすでに数万から10万人以上いると概算されている。ウクライナ最西部のザカルパッチャ州(人口120万人)では、徴兵が強化されたら越境逃亡しようと隣国ハンガリーの国籍を取得する男たちが殺到し、二重国籍者が9万人以上増えた。2月末には、停戦を嫌う極右勢力が首都キエフの中心街と空港で大暴れし、停戦合意を締結させた独仏を敵視するあまり、独仏からキエフへの飛行機の到着を禁止しろと空港当局に迫った。 (Ukrainians Escape From Mobilization by Obtaining Hungarian Citizenship) (The Draft Dodgers of Ukraine) (Clashes in Kiev as anti-government protest escalates

 ウクライナ経済はIMFからの資金援助を受けても悪化する一方で、当局が石炭を買えず、火力発電所が止まってしまった。通貨フリブナの為替も暴落している。ウクライナはIMFから175億ドルを借りたが、その資金は内戦のための武器輸入と、これまでの借金を外国の債権者に返すために費やされ、自国民の生活改善に使われないことを、ポロシェンコ大統領自身が認めている。 (Ukrainian President: Enormous IMF Loan Won't Help Ordinary Ukrainians) (EU and Russia: No option but peace and coexistence

 戦場では昨年からずっと、親露派の東部軍が優勢で、ウクライナ軍が劣勢だ。東部軍が、勝っていたのに停戦に同意した理由は、ロシアがウクライナ東部地域に無償でガスを送るなど経済立て直しに協力することを条件にしたからだった。ウクライナ軍は統計上、約2千両の戦車を持っているが、その多くは30年以上前に製造され、車庫に置いてあるが動かない「部品取り」用の残骸であると指摘されている。 (Gazprom to consider separating Donbas gas supplies from Ukraine) (When The Kiev Army Has No More Tanks) (安定に向かいそうなウクライナ

 米国は2月初め、弱すぎるウクライナ軍をテコ入れするため、米軍の部隊を派遣してウクライナ軍を訓練する計画を立てた。加えて米国がウクライナに殺傷力の高い兵器を供給する計画を表明したため、EUは、このままだと米露戦争が起きてしまうと懸念し、独仏首脳が急いでロシアとウクライナを回り、崩壊していた停戦合意を立て直した。その後、停戦がうまく機能しているのを見て米国防総省は3月7日、停戦が続く限り、ウクライナ軍を訓練するために米軍部隊を派遣することを延期すると正式に発表した。 (US Puts Ukraine Training Operation on Hold Because of Ceasefire) (◆ウクライナ米露戦争の瀬戸際

 米国の政府高官や議員、軍幹部らは、ウクライナへの武器供給を「検討している」「すでに行った」「もっと強化する」などとさかんに騒いでいるが、ロシアの議員(Konstantin Kosachev)によると、米国は2月上旬以来、ウクライナへの武器供給を止めている。2月上旬に開かれたミュンヘン安保会議で、ドイツのメルケル首相ら欧州の指導者が、外交解決を結実させるから米国は武器供給をやめてくれと強く求め、オバマ大統領がそれに応じた結果だと露議員は言っている。 (Munich Security Conference made US refrain from arms supplies to Ukraine) (Despite Ceasefire, Increasing Push for US to Arm Ukraine

 ウクライナの停戦は維持され、合意に沿って兵器の引き離しが進んでいる。米国は、同盟国である独仏が仲裁した停戦を静かに尊重し、ウクライナに対する軍事訓練の延期や武器輸出を停止を決めている。緊張緩和が現場の状況だ。しかし、米高官の発言や、米欧の報道から感じ取れる状態はそれと正反対で、米国とロシアが本気で戦争する準備を着々と進めているかのようなイメージが流布している。 (ウクライナ再停戦の経緯

 米国務省のビクトリア・ヌーランド次官補は3月10日の議会下院外交委員会の公聴会で、露軍がウクライナ東部に戦車部隊を入れる「侵攻」を続けており、米国はできるだけ早くウクライナに武器支援すべきだと発言した。米高官がウクライナ危機でロシアに対して「侵攻」という言葉を使ったのはこれが初めてだ。公聴会では、議員たちも口々にロシアを非難し「露外相は大ウソつきだ」などと息巻いた。しかしヌーランドは発言の中で、オバマ大統領自身として、ウクライナに武器を送ることをまだ決断していないとも述べている。 (Russia's actions in Ukraine conflict an 'invasion', says US official) (Nuland's Mastery of Ukraine Propaganda

 ヌーランドは昨年始め、米国務次官補としてウクライナの極右勢力らによる親露政権の転覆を支援し、政権転覆に反対するEUを「くそったれ(ファック)」とののしっている電話が録音されて漏洩し、国際的に有名人になった。彼女は、03年にイラクに大量破壊兵器保有の濡れ衣をかけて侵攻する策を成功させた「ネオコン」系の好戦的な人物で、ネオコンの首謀者の一人ロバート・ケーガンの妻だ。ロシア語が堪能、祖父母がウクライナ出身で、この地域を熟知した上で動いている。ヌーランドは民主党のオバマ政権で働いているが、ネオコンはもともと共和党系で、16年の米大統領選挙で共和党が勝ったら、ヌーランドは国務長官になりそうだと言われている。 (Transcript of leaked Nuland-Pyatt call) (危うい米国のウクライナ地政学火遊び

 ヌーランドは米国務次官補として、ウクライナでやったような反政府運動の扇動による政権転覆策を、他のロシア近傍諸国でもやろうとしており、2月16日にはロシアとイランの間にあるアゼルバイジャンを訪問した。 (Azerbaijan should be very afraid of Nuland

 すでに書いたように米国防総省は3月7日、ウクライナへの訓練要員としての米軍派兵を延期すると正式に発表したが、その数日前まで米軍幹部は、ロシアがどんなに反対しようがウクライナに米軍を派遣すると強く発言し続けていた。米政府は、自分たちの姿勢を、実際にやっていることよりも好戦的に見せようとしている感じだ。 (Despite Russian Warnings, US Will Deploy A Battalion To Ukraine By The End Of The Week

 3月11日には、NATO軍を率いる欧州駐留米軍のブリードラブ司令官が、ロシアは停戦合意を破ってウクライナ東部に何千人もの露軍を侵攻させており、事態がどんどん悪化していると述べた。ブリードラブは停戦監視団のOSCEが露軍侵攻を確認しているとも述べたが、OSCEは停戦合意が守られていると発表し続けており、ブリードラブの発言を否定している。ヌーランドやブリードラブといった米政府の高官たちは、独仏露の努力によって実現しているウクライナの停戦や安定を破壊し、米欧とロシアを戦争に陥れたいようだ。 ('F-k the EU,' Revisited) (U.S. Says More Russian Tanks Have Crossed Into Ukraine

 現在のウクライナの停戦合意は、ドイツのメルケル政権が駆けずり回って具現化したものだ。「露軍がウクライナに侵攻している」とウソのロシア敵視発言を繰り返している米高官たちは、ドイツの和平努力を妨害している。NATO内でも、高官でなく、露軍の動きを監視している分析担当者たちは、ドイツ政府の問い合わせに対し、露軍はウクライナに侵攻していないし、侵攻しそうな様子もないと答えている。米国の諜報機関がドイツの諜報機関に毎日送ってくる情報も、露軍が危険な行動をしているとは書いていない。米国の高官たちは、自分たちの諜報分析を無視してウソのロシア敵視を流布し、独主導の和平策を妨害している。メルケルの側近は、匿名で「独政府は、ブリードラブの露敵視発言が危険なプロパガンダだと考えている」「ドイツは米国のネオコンの好戦策にうんざりしている」とマスコミに書かせた。 (Germany Has Had Enough With US Neocons: Berlin "Stunned" At US Desire For War In Ukraine

 米国がロシアを敵視・軍事挑発している場所はウクライナだけでない。2月24日、バルト3国のエストニアの対露国境の町ナルバに米軍の戦車部隊と英軍の歩兵部隊がやってきて、国境から300mの場所でロシアを挑発する行進を行った。米英軍の行動は、エストニア独立記念日の行事の一環という名目だった。ナルバは人口6万人で、市民の大半がロシア系(露語が母語)だ。 (US and British army parade 300 yards from Russia border) (US trying to `provoke Russia to react' over Ukraine crisis: Analyst

 それ以来、米政界では「ロシアはウクライナの次にバルト3国に侵攻してくる。バルト3国にNATO軍を派兵せよ」といった主張が強まり、米軍は3千人の戦車部隊をエストニアなどに派遣し、NATOの空軍機がバルト3国に頻繁に来るようになっている。米地上軍がロシア(ソ連)に隣接する地域に駐留するのは、冷戦時代を含め、これまでになかったことだ。 (NATO Eyes Air Defenses Over Fears Putin Will Target Baltics) (U.S. MILITARY MOVES TO RUSSIAN BORDERS FOR FIRST TIME EVER) (US army tanks arrive in Baltics amid mounting Russian invasion fears…drills in Baltic states more political than military show

 米国は、ロシアを挑発してバルト3国やウクライナで近いうちに対露戦争を始めようとしているかのようだ。しかし、地元の人々のほとんどは、そんな戦争を全く望んでいない。3月1日のエストニアの議会選挙では、親米的な改革党が28%を得票して与党の座を守ったが、親露的な中央党も25%を得票し、政権をとれなかったものの人気が上昇している。 (NATO invents Russian threats in the Baltic - but Putin's next big play is Greece) (Party with ties to Putin pushes ahead in Estonian polls

 ロシア系はエストニア国民の4分の1以上を占めるが、多くが選挙権のない「灰色旅券」やロシア国籍(外国人扱い)で、政治的に差別されている。それを考えると、中央党の健闘は意外だ。プーチンはバルト3国で好感されている。バルト3国は、ロシアとNATOの間のバランスをとることで安定を確保しようとしており、米国がロシアを軍事挑発して戦争を起こすことを全く望んでいない。安定を重視するプーチンの方がましだと考える人が増えて当然だ。 (Estonia Can Handle Putin's Soft Power) (Reform Party Wins Estonia Elections

 米国はロシアと戦争しようとしていない。戦争する気なら、まずウクライナの現政権を安定・強化するはずだ。IMFの融資が外国の債権者の返済に回されるのでなく、ウクライナ国民の生活を助けるように仕向け、暴力的で国民の支持を失っている極右勢力を政権から排除して、国民の厭戦機運や徴兵忌避を減らすことが必要だ。実際に米国がやっているのは正反対で、ヌーランド国務次官補が傀儡として好んだ極右指導者のヤツニュクが、いまだに首相をやっている。しかもヤツニュクは、ポロシェンコ大統領に権限を剥奪され、単なるお飾りだ。ポロシェンコは米国の傀儡を演じるため、ヤツニュクの首相として置いている。ウクライナ政府は、政治的・財政的に崩壊寸前だ。オバマが「好戦派」の象徴的存在である共和党のネオコンのヌーランドを、わざわざ登用して「活躍」させている点にも茶番を感じる。 (ウクライナを率いる隠れ親露派?

 米国がロシアと戦争する気なら、ドイツと中国を味方につける必要があるが、ドイツも中国も、米国の過剰な好戦策に怒っている。中国政府は昨年来、ウクライナ問題についてずっと黙っていたが、3月に入り、中国の駐EU大使が「ウクライナ危機の原因は米欧(の好戦策)にある。米欧はロシアに危機感を抱かせる露敵視策をやめるべきだ」と表明した。米国は、茶番で過激な好戦策によって、せっかく中立の立場をとってくれていた中国を、ロシアの側に押しやってしまった。米国は外交・軍事・財政の全面で03年のイラク侵攻時より弱体化しており、独中など国際社会に反対された状態でロシアと戦争できない。 (China Warns U.S. to Stop Its Ukrainian Proxy War Against Russia) (China Just Sided With Russia Over The Ukraine Conflict

 米国は、ロシアと戦争する気がないのに、今にも対露開戦しそうな雰囲気を醸し出している。なぜなのか。冷戦状態(米国が欧州を傘下に入れてロシア敵視を恒久化する策)を再現したいのか。それならドイツを怒らせるのは大間違いだ。ドイツだけでなくフランスやイタリアも米国への信頼を失い、親露的になっている。EUの上層部は、米国に振り回されて不必要な露敵視をやらされているNATOが信用失墜の危機にあるとみなし、NATOに代わる軍事機関として欧州統合軍を作るべきだと、EUのユンケル大統領が改めて提案した。米国の茶番な好戦策は、冷戦機関であるNATOを強化するどころか、逆に解体している。(ユンケルが抱く対米自立の謀略については、以前のギリシャの記事で書いた) (NATO's Not Enough! President Juncker Calls For Creation Of European Army To "React Credibly" To Russia) (EU統合加速の発火点になるギリシャ

 イタリアの首相が先日ロシアを訪問し、イタリアの対岸にあるリビアの内戦を欧露協調で終わらせようと提案した。この動きも、EUが、米国の覇権を無視してロシアと手を組もうとしていることを示している。EUはすでに外交戦略を統合しており、イタリアだけの意志でこんな動きをするはずがない。リビアは米国によって内戦に陥らされた。その後始末を、欧露が米国抜きでやろうとしている。EUのモゲリニ外相(イタリア人。共産主義者)は「ロシアを敵視しない」「ウクライナの内戦を煽らない」「EUは(米国の傀儡でなく)超大国の一つだ」などと表明し続けている。米国が稚拙な好戦策をやるほど、EUは米国から遠ざかり、ロシアに近づく。 (Renzi appeals to Putin for Russian help to stabilise Libya) (EU won't be pushed into confrontation over Ukraine - foreign policy chief) (Mogherini: 'The EU is a superpower') (イスラエルがロシアに頼る?

 米国はプーチンを倒すつもりで失敗しているのか?。これは意図せぬ失策なのか。私はむしろ、今の状況を作ることが、オバマ政権のやりたいことだったのでないかと考えている。イスラエルのネタニヤフ首相の訪米演説でわかったように、米議会は軍産イスラエル複合体(タカ派)の傀儡であり、オバマは傀儡状態から米国を脱却させるためにイランにかけた核の濡れ衣を解こうとしたり、軍産イスラエルが作り上げたISISを本気で潰そうとするなど、逆に軍産イスラエルを窮地に追い込もうとしている。オバマ政権は、タカ派よりさらに好戦的に振る舞い、好戦策を過激に、茶番的にやって失敗させ、ロシアや中国、発展途上諸国が米国抜きの世界体制(BRICSなど)を作り、同盟国(独仏など)が米国に不信感を抱いて米国抜きの体制に接近するよう仕向け、世界をタカ派による支配から脱却させようとしているのだと考えられる。こうした策は、前ブッシュ政権やレーガン政権もやっていた。 (ますます好戦的になる米政界) (ユーラシアは独露中の主導になる?

 かつてケネディやカーターは、好戦派に対抗する和平派を鼓舞して、軍産の好戦策(冷戦など)を打破しようとした。ベトナム戦争を意図的に泥沼化し、リベラル派の反戦運動を煽ったのもその一つだ。しかし、国際的な寛容の精神に立脚するリベラルより、視野の狭いナショナリズムに裏打ちされた好戦派の方が断然強く、リベラルに立脚して好戦策を打破するのは無理だった。戦争状態を起こしてマスコミを動員すると、為政者は簡単に好戦的なプロパガンダで国内を席巻でき、寛容を説くリベラル派を駆逐できる。好戦派(軍産)が恒久化したがった冷戦を終わらせることに成功したのは、リベラル派でなく、過激好戦策(隠れ多極主義)のレーガン政権だった。この流れに沿って、ブッシュもオバマも過激好戦策をやっている。 (隠れ多極主義の歴史

 オバマ政権は最近、キューバと和解するとともにベネズエラ敵視を強めている。これは中南米諸国を反米の方向に強化する動きだ。ベネズエラは国家破綻に瀕しているが、ブラジルや中国が支援に回っており、米国が敵視する国々をBRICSが助ける構図が世界各地で増える流れを作っている。 (Venezuelan, Russian Troops Stage Large-Scale Military Exercises) (Russia Warns US Action on Venezuela Threatens Latin America) (Venezuela Begins Liquidating Its Gold

 米軍が撤退しようとしているアフガニスタンも、中国とロシア、イラン、インドといったBRICS・非米諸国によって管理される態勢に移行しつつある。中国は、自国の傘下に入っているパキスタンを経由して、パキスタンの傘下にいるタリバンと、米国が作ったアフガン政府との和解を仲裁し始めている。「米軍はアフガンから撤退しない」と喧伝されているが、すでにアフガンの米軍基地にはほとんど米軍がいない。「撤退しない」と表明して、アフガンが引き続き米軍の支配下にあるかのような印象を振りまきつつ、実は米軍支配が空洞化し、その下で中国がアフガンを統治する体制を目立たないように作っている。 (China offers to mediate in stalled Afghan Taliban peace talks) (As U.S. Exits, China Takes On Afghanistan Role

 米国がロシアに濡れ衣をかけて過剰に茶番に敵視するほど、EUは米国を信用することをあきらめ、露中やBRICS、イランなどとの連携を強める。オバマはおそらく、これらの策を意図的にやっている。しかもオバマは、軍産イスラエルと対立し、自分を助けてくれる外国勢力を求めている。17年になってオバマ政権が終わると、次の米政権はどちらの政党が大統領になっても、今よりずっと好戦的になる。外国勢力が、オバマと結束して世界を軍産支配から脱却させる好機は、今から16年末までの1年半しかない。 (ウクライナでいずれ崩壊する米欧の正義

 このような状況下で、メルケルらEUは、オバマと結束して、EU統合を邪魔する好戦派を無力化しつつ世界を安定させるか、従来の対米従属を続けてEU統合がいつまでも進まない現状に甘んじるかという選択を迫られている。昨年からのウクライナ危機の発生は、EUにその選択をいっそう迫るものになっている。これまで、メルケルのドイツは対米自立の踏ん切りがつかず、優柔不断なのでギリシャやウクライナで米国勢に危機を起こされ、窮してきた。 (米覇権下から出てBRICSと組みそうなEU

 ドイツやEUが今後も優柔不断なままだと、ウクライナやギリシャ(ユーロ)の危機が延々と続き、EUは疲弊させられる。それがいやなら、EUは今年中にNATO(対露)や投機筋(対ユーロ)に勝手なことをさせないようにする策を講じ、対米自立色を鮮明にしていく必要がある。ドイツやEUに、そのような自立の選択を迫るのが、オバマの策の一つであると考えられる。 (プーチンを強め、米国を弱めるウクライナ騒動) (ドイツの軍事再台頭

 日本は、ドイツと対照的な位置にいる。日本の政治関係者で最もドイツやEUの上層部のあり方に近いのが、先日クリミアを訪問した鳩山由紀夫元首相だ。ドイツの機関の調査によると、クリミアの住民の81%が、ロシアへの併合に賛成している。ロシアのクリミア併合は民意にそったものだと表明した鳩山は正しい。鳩山は、国際人としての感性を持っている数少ない日本の政治家の一人だ。鳩山の発言を聞いて「やっぱりあいつは宇宙人だ」と揶揄した人々の方が、実は、世界から見るとお門違いな「宇宙人」である。 (Crimeans, overwhelmingly prefer Russia



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ