他の記事を読む

米朝核戦争の恐怖を煽るトランプ

2017年11月4日   田中 宇

 11月5日からのトランプの東アジア歴訪を前に、米軍が、北朝鮮との戦争を想定しているかのような軍事訓練や前方展開をしている。米空軍の参謀長(David Goldfein)によると、空軍はルイジアナ州の基地に配備してある核兵器搭載の爆撃機B-52を、いつでも北朝鮮を先制攻撃できるよう24時間体制の配備を開始した。この態勢は冷戦終結後はじめてだ。空軍の広報官は報道内容を否定したものの、北を攻撃できる準備を進めていることは認めた。参謀長が好戦性を煽った後、広報官が火消しに回っている。米共和党系の国際情勢分析者(James Jatras)は、核爆撃機の24時間配備により、米朝戦争の可能性が30%増えたと言っている。もともと何%だったのか言っておらず、この指摘も分析というより煽動だ。 (US Preparing to Put Nuclear Bombers Back on 24-Hour Alert) (Air Force denies that it is preparing high alert for B-52 bombers) (Risk of war between US and North Korea increased by 30%: Analyst

 トランプのアジア歴訪に合わせ、西太平洋には米軍の空母が3隻結集し、インド洋にも空母がいる。3隻結集は07年以来、10年ぶりだ。空母には必ず軍艦が多数同行しており、全体としてものすごい数になる。この結集は、北に対する挑発なのか、中国に対する「早く北に核を廃棄させろ」と圧力なのか、それとも本当に北を先制攻撃するつもりなのか、憶測と恐怖心を巻き起こしている。10月末には、米軍が、世界規模で核戦争に備える軍事演習(グローバルサンダー)を実施した。毎年やっている定例の演習だというが、これも米朝核戦争との関連で報じられている。 (Is the United States Planning to Attack North Korea?) (US launches worldwide nuclear war drill with bombers, missiles

 11月2日には、米軍の戦略爆撃機(核は積めないB1)と、韓国軍と日本自衛隊の戦闘機などが、韓国の周辺で、北を攻撃する合同軍事演習を行った。演習の実施を最初に報じたのは北朝鮮の国営通信社で、これは戦争開始の準備に違いないと怒りの報道をしている。トランプは、自分が極東を訪問する直前に、北をさかんに挑発している。 (US bomber drills raise tensions with North Korea ahead of Trump’s Asia visit

 10月下旬には、在韓米軍が韓国全土で、在留米国人(14万人)を対象に、北との戦争などが起きた場合に備える避難訓練を実施した。毎年2回行われる定例的なもので、まもなく米朝戦争が起きると予測したものでないと在韓米軍が発表したが、これもトランプの先制攻撃との絡みで語られている。米朝戦争が起きたら、韓国で1日2万人ずつ、もしくは数日で30万人が死んでいくと予測されている。米国人には避難経路が確保されるだろうが、ふつうの韓国人は逃げられず死んでいく。 (North Korea: US military to stage evacuation drills across South Korea) (The United States and North Korea Are Edging Into Increasingly Dangerous Territory

 北は核ミサイルの性能を高め続けている。数か月後には米国を核攻撃できるミサイルを持つことになると、CIA長官が先日発表した。これも扇動的だ(それを真に受けると来年4月米朝戦争説になる)。トランプは、早く中国が北に圧力をかけて核廃棄させるか、さもなくば早めに先制攻撃するしかないと言い続けている。米国が北と直接に交渉するという選択肢もあるが、トランプは交渉を拒否し、北と交渉したがるティラーソン国務長官を辞めさせるかもしれないと言い出している。 (CIA Chief: North Korea on Cusp of Ability to Hit US With Nukes) (Trump says unsure if Tillerson will remain secretary of state

 軍産は、核戦争や韓国の国家壊滅になる北への先制攻撃をトランプにやってほしくない。先制攻撃が限定戦争に終わらず、大規模な核戦争に発展する可能性が非常に高いと、しだいに多くの米軍関係者が警告している。戦争するなら、核戦争になる北でなく、イスラエルを守ることになる中東でやってほしいと、米議会の議員たち(イスラエル傀儡)は考えている。だが、トランプを制御することは困難だ。 (Congressional Critics Dream of Confiscating Trump's Military Powers) (As the North Korean crisis escalates, the possibility of nuclear war has suddenly become discussable

 米国の開戦権はもととも議会下院が持っていたが、911以降のテロ戦争において「テロに素早く反撃するため」という口実で、大統領が臨時の開戦権を持っている(911によって米上層部を牛耳った軍産複合体は、人数が多い議会より、側近陣による少人数の密室談義で決定する大統領府の方が牛耳りやすい)。トランプは、この軍産が付与した開戦権をふりまわし、北を先制攻撃するかもと息巻いている。議会が大統領から開戦権を剥奪すれば、トランプは北を攻撃できなくなるが、それだと軍産にとって便利な恒久戦争システム全体が失われる。軍産はトランプを止められない。トランプは、過激な好戦策で軍産に勝っている。 (Democratic senators plan to stop Trump from bombing North Korea) (Even Without Nukes, Korea War Would Kill 300,000 in Days

▼中国はもう北制裁で米国に協力しなくなる

 米国の上層部が、破滅的な先制攻撃以外で、北の核を抑止できる方法として考えてきたのが、中国を使って北に圧力をかけさせる方法だ。これまで中国は「米国が北を威圧する限り、北は交渉に応じないのでダメだ」と言いながらも、国連決議に沿って北を制裁(するふりを)して、米国に協力してきた。北は中国の言うことを聞かず、中朝は対立が深まっていた。 (中国に北朝鮮核を抑止させるトランプの好戦策

 だが、中国の習近平は、10月中旬の共産党大会の前後に、北の金正恩と16か月ぶりに書簡をやりとりし、最近の対立状態を解消した。金正恩が中国共産党大会に祝辞を送り、その返礼に習近平が、北と一緒に東アジアの安定、繁栄、和平を実現していきたいと返信した。韓国当局によると、中国は党の高官を北に派遣するかもしれない状態だ。金正恩が13年に、中国式の経済開放策を進めていた側近の張成沢を処刑して以来、中朝間の高官の行き来は4年間途絶えていた。 (Unification Ministry: Chinese Official Likely to Visit N. Korea) (御しがたい北朝鮮

 中国の党大会後、中朝関係は画期的に改善している。その背景には、習近平が党大会を機に、これまでの「米国に逆らわず、頭を低くして国力を蓄えよ」というトウ小平が決めた国際戦略を卒業し、米国と対等な地域覇権国として振る舞う戦略に転じたからだ。中朝の親善書簡のやり取りは、習近平からトランプに向けた「もう、傲慢な米国の言うことなんか聞かないよ」という示唆である。トランプは11月8日から中国に行くが、北核問題の解決に向けた進展は少ないだろう。 (North Korea says China's Xi wants to boost ties) (世界資本家とコラボする習近平の中国

 北は、餓死者が出ても核兵器を開発できる独裁・結束(拘束)の強い国だ。外部から圧力をかけて核廃棄させるのは無理だ。ロシアのプーチンが9月に提案・示唆したように、核問題をいったん棚上げ・凍結し、韓国や露中日などが北の経済発展や安定化に協力し、その過程で北が核開発を再開しない状況を作っていくぐらいしか方法がない。中国は今後、北に対する公式な姿勢をプーチンに近づけていくだろう。米国の言うことは聞かなくなる。 (プーチンが北朝鮮問題を解決する) (Vladimir Putin: "Don't Back North Korea Into A Corner"

 米国と中国の間には、北核問題の他に、貿易など経済の関係もある。トランプが貿易分野で中国を喜ばせれば、中国は北問題で米国と協調(するふり)を続けるかもしれない。だがトランプは逆に、訪中を前にした10月27日、中国から米国へのアルミホイルの輸出価格がダンピングされていると言って、100%前後の報復関税をかける仮決定を米商務省に発表させた。中国側が供給過剰なのは事実だが、すでに米国へのアルミホイル輸出は減っており、むしろ報復関税の影響で米国内でアルミホイルの流通価格が上がることが懸念されている。 (U.S. Imposing Anti-Dumping Duties on Chinese Aluminum Foil) (The US wants to notch trade wins against China, but Trump needs Beijing's help with North Korea

 加えて米財務省は11月2日に、以前から問題にしてきた中国の丹東銀行に対し、北のマネーロンダリングに協力しているとして、正式に米国の金融システムから締め出す制裁を発動した。これは以前のマカオのデルタ銀行( バンコ・デルタ・アジア)への制裁と同様、北制裁というより中国に対する意地悪だ。2つの経済制裁は、習近平を怒らせ、訪中してくるトランプに協力したくない気持ちにさせるものだ。米中協調で北を抑止する態勢を、トランプ自身が壊している。トランプは、中国訪問で成果をあげられず、その後さらに、先制攻撃しかないと北を威嚇する調子を強めるだろう。来年早々に戦争だ、といった話が喧伝される事態になりそうだ。 (Chinese bank banned from operating in US over North Korea ties) (北朝鮮制裁・デルタ銀行問題の謎

▼トランプは韓国を怒らせるため、北との戦争を寸止め状態にし続ける

 トランプは、北を威嚇して今にも戦争しそうな状況を作っている。助け舟を出せる中国を、わざと怒らせて北の側につかせてしまう。アジア歴訪は、これらの傾向を加速する。トランプは、何がしたいのか?。本気で北を先制攻撃するつもりか?。そうでもない。米上層部で軍産が北との戦争に賛成していないので戦えない。今の北は、03年のイラクのように丸腰でなく、米軍は苦戦する。米国の戦略立案業界は、韓国を壊滅させずに北を軍事で抑止する方法を全く示していない。北に戦争を仕掛けるなら、その直前まで、和解交渉するそぶりを見せ、北を油断させた方が得策だが、トランプの言動はその正反対だ。 (Russia-China can settle N Korea: Lavrov

 この疑問に関する私の最近の分析は、次のとおりだ。「米国覇権の放棄を追求するトランプは、韓国の破滅につながる北との戦争をやると言い続けることで、韓国人の反米感情や対米自立心を煽り、韓国に対米従属をやめさせ、在韓米軍の撤退や、米韓軍事演習の中止、米韓軍事同盟の解消を韓国が米国に求めてくるように仕向けている。韓国は、安保面で米国と疎遠になるとその分、中国やロシアに接近し、韓国は中露と一緒に北朝鮮問題をプーチン案で解決しようとする。北は交渉に乗りやすくなり、北の問題は米国を外したかたちで解決していく。トランプは、韓国が安保面で米国から離れた時点で、北を先制攻撃すると言わなくなる」 (北朝鮮危機のゆくえ

 韓国を潰そうとする言動をとり続けているのは、北でなくトランプだ。北は、トランプから攻撃されそうなので、核ミサイルという対米抑止力をつけているにすぎない。すでに韓国人の大半が、北よりトランプの方が脅威だと考えている。トランプは、この状態がさらに進み、韓国が対米自立を決意し、中露と明示的に組んで北問題の解決に乗り出すまで、北への先制攻撃を言い続け、今にも北と戦争しそうな「戦争の寸止め状態」を続ける。 (北朝鮮危機の解決のカギは韓国に

 トランプは、詭弁屋の文民(ネオコンなど諜報界=軍産の要員)でなく、有事の際に大統領の命令に従うよう訓練された将軍たちを安保担当の側近に配置している。側近が文民だと、寸止めするふりをして、本物の戦争をやってしまいかねない。軍内の指揮系統に精通した将軍たちを通じて米軍を動かすことで、トランプは、今にも戦争しそうだがやらない寸止め状態を続けられる。米軍自身は、多大な犠牲を無駄にはらうことになる北との戦争をやりたくないので寸止めに賛成だ。 (北朝鮮問題の変質

 トランプの最終目的は、911以来の米国の軍産による隠然独裁体制を破壊し、米国をまともなふつうの国に戻すことだ。トランプは、米単独覇権の体制を崩し、中国やロシアやEUやイランなどの非米諸国を怒らせ、反米感情を煽ることで、非米諸国を国際社会で台頭させ、覇権構造を多極化することで、軍産による世界支配を終わらせたい。そのために、トランプはすすんで悪者になっている(尊敬に値する)。軍産は世界の恒久的な不安定を好むが、中露イランEUなど非米的な諸大国は、自国が優勢な状態での世界の安定を好む。中露イランEUは、相互に戦いたがらない(EUはまだ移行期。日本も早めに対米自立すれば仲間入りできる)。 (田中宇史観:世界帝国から多極化へ

「米国が韓国を対米自立させたければ、トランプが在韓米軍の撤退を宣言すればいいだけだ」「覇権を放棄したいのなら、そう言えばいいだけだ」と考える人もいるだろう。そういう人は、トランプが対露和解をやろうとしたとたん、トランプ陣営をロシアのスパイ扱いする無根拠なスキャンダルの嵐が巻き起こり、トランプに対露和解をあきらめさせた経緯を思い出すべきだ。軍産は、米国の政界、諜報界、外交界、マスコミ、学界などに深く根を張り、反逆的な大統領の政策をいろんな方法で潰す。対露和解が通らないのだから、在韓米軍撤退や覇権放棄は、もっと通らない。軍産に反逆するには、軍産っぽい政策を進めつつ、結果的に軍産支配が崩れるように仕向けるしかない。ネオコン的な、隠れ多極主義しかないのだ。 (トランプの新・悪の枢軸

▼トランプが北と敵対するほど、北は米本土に撃ち込める核ミサイルを開発し、米国民は韓国を切り離したくなる

 米マスコミは軍産の一部であるため、トランプに対して誹謗中傷や攻撃的な報道を続けている。日本でも「トランプがまともな戦略をもっているはずがない」と考える人が多い。「利益満載の覇権を、米国が放棄したがるはずがない」という人も多い。上記の私の分析は受け入れられにくい。だが、韓国で起きている現実を見ると、トランプがどう考えているかにかかわらず、上記の展開になっていることが見て取れる。トランプの訪問に際し、韓国では左派の人々による大規模な反米デモが計画されている。日本ではシンゾーとゴルフするだけだが、韓国では波乱が待っている。今後、トランプが北先制攻撃を言い続けるほど、韓国の左派は反米感情を強め、対米自立への要求を強める。 (‘Don’t come here!’ South Korea protests against Don

 トランプの訪韓に先立ち、韓国の文在寅大統領は11月1日、韓国の許可なしに米国が北を先制攻撃することを禁じる宣言をテレビ演説で表明した。文在寅は、今年5月の大統領就任直後に何度か同じ宣言を発したが、中国の対北制裁に期待が集まった今夏には、この宣言を繰り返さなくなった。6月に文在寅が訪米してトランプに会った際、韓国の軍事的な対米自立(有事指揮権を米軍から韓国軍に戻す)を進めることで合意したのも、文在寅がトランプ批判をやめた一因だろう。最近、トランプが今にも北を攻撃しそうな勢いを再発し、韓国の反米世論が盛り上がっているため、それに呼応して文在寅が再び米国に対する北先制攻撃禁止を宣言した。 (South Korean Leader Warns Against Attack on North, Ahead of Trump’s Asia Trip

 1950年代の朝鮮戦争以来、韓国軍は、米軍の助けなしに北に勝てないことになっており、韓国軍の指揮権(作戦統制権、OPCON)を米軍が持っていた。平時の指揮権は94年に韓国軍に移譲されたが、有事(戦時)の指揮権はまだ米軍が持っている。有事指揮権は07年に、12年に移譲と決まったが、10年の不可解な「天安号沈没事件」の後、15年移譲に延期され、さらに対米従属派との政争に負けた朴槿恵・前大統領が2020年以降に延期した。 (Plans for early return of wartime OPCON transfer to be developed by next year) (韓国軍艦「天安」沈没の深層

 韓国政界は、対米従属派(右派。軍産傘下)と対米自立派(左派)の対立構造で、北が核ミサイルを開発する中で、米軍がいないとダメだと主張する右派が強くなり、指揮権移譲が遅らされた。しかし、この傾向は今年、トランプが就任し、韓国壊滅の危険を無視して北への先制攻撃を叫ぶなかで転換し、米国に依存しているとむしろ国を潰されると考える韓国人が増え、指揮権移譲を最速で進める方針を掲げる左派の文在寅が大統領になった。 (北朝鮮問題の解決に本腰を入れる韓国

 10月末、トランプに先立って米国からマチス国防長官が訪韓した際、来年10月までの1年間で、指揮権移譲(在韓米軍の縮小など)の詳細を決めることで合意した。早ければ2019年に有事指揮権が米軍から韓国軍に移譲される。米軍への依存を減らす分、韓国は自国の防衛力を強化する必要があり、文在寅政権は来年度予算で7%という史上最大の軍事費増加をすることにした。文在寅は、北との戦争に反対してきた左派だが、反戦なのに(反戦であるがゆえに、軍産の傘下から出るために)自国の軍事費を急増させている。 (Allies agree to speed up OPCON transfer

 10月下旬の世論調査では、韓国人の73%が文在寅を支持している。同時に54%が、できるだけ早く有事指揮権を韓国軍に移譲すべきだとも答えている。トランプが叫ぶ北先制攻撃への賛成は6%しかない。この世論調査でもう一つ興味深いのは、韓国人の59%が、北に対抗して自前の核兵器を持つべきだと答えていることだ(核保有反対は39%)。 (Majority of people back prompt OPCON transfer

 韓国(や日本)が自前の核兵器を保有すると、その時点で米国から「核の傘」の下に居続けることを断られ、軍事的な対米自立を迫られる。自前の核保有は、最も手っ取り早い対米自立への道だ。逆に、韓国(や日本)が、米国に対し、自国内に核兵器を置くよう求めてかなえられると、それは対米従属の強化になる。 (北朝鮮と日本の核武装

 韓国の野党党首(自由韓国党の洪準杓)が10月下旬に訪米し、米政府に対し、韓国に戦術核兵器を再配備してほしいと要請した。米軍は冷戦期に戦術核を韓国に配備していたが、冷戦終結直後の91年に撤去した。韓国野党の依頼に対して米政府は、韓半島の平和を維持するため、核兵器の再配備はしないと明確に断った。米軍は、冷戦期よりも爆撃機の性能が上がり、グアム島から北を核攻撃できるので韓国に核配備する必要はないと言っている。トランプは覇権放棄屋なのだから、韓国(や日本)から頼まれても核を再配備しない。文在寅大統領は、自前の核兵器開発も、米国による核の再配備も否定している。 (South Korean Opposition Leader Presses U.S. for Nuclear Weapons) (President: South Korea Won’t Develop or Possess Nuclear Weapons

 北の核ミサイルの開発が進んでいると喧伝されるほど、米国の政界や言論界では「韓国を守るために北と対立し、米国自身が北の核の脅威にさらされるのは馬鹿らしい。韓国は北よりはるかに金持ちで軍事力を簡単に増強できるのだから、早く在韓米軍を撤収し、北のことなど放っておくのが、北の核ミサイルの米国への飛翔を止める最も簡単な方法だ」といった見方が広がる。 (Instead Of Risking Nuclear War, U.S. Should Let South Korea Take Over Its Own Defense

 米国民が最大の脅威とみなす勢力は、かつてテロリストのISIS(イスラム国)だったが、今は北朝鮮になっている。トランプが北を先制攻撃するぞと息巻くほど、北は米国を核攻撃すると言い返し、米国民が不安がって在韓米軍の撤収を求めるようになり、軍産と韓国右派の恒久対米従属の図式が崩れていく。 (Neocons Are Winning? America's Fear Of North Korea Is Rising

 韓国は、米国から離れていく一方で、中国と接近している。中国の共産党政権は、今年初めに韓国が米国から(中国まで監視できる)レーダーつき迎撃ミサイル(THAAD)を配備して以来、韓国に対する事実上の経済制裁を強化し、中韓関係は冷却していた。だが中国は先日の党大会後、韓国に対して急に友好的な態度をとるようになり、トランプの歴訪を前に、中韓関係が急速に親密化している。すでに述べたように、中国は北との関係も改善しており、中国が北と韓国の和解交渉を仲介できる状態になっている。 (An unexpected détente — South Korea and China

 ここで見るべきは、今は経済・貿易のみでつながっている中韓の協力関係が、今後、戦略や安全保障の協力関係に発展するのかどうかだ。韓国が軍事的に完全に対米自立するなら、その後は中韓の安保戦略面の協定があり得るが、韓国が安保面で対米自立しつつあるとはいえ、まだ対米従属を続けて米軍の傘下にいる現状のまま、中国とも組めるのかどうか、という疑問だ。トルコは、米軍が支配するNATOに入ったまま、ロシアから迎撃ミサイルを買い、イランと戦略提携している。だが、中東と極東では状況がかなり違うともいえる。

 今後、韓国が中国と戦略関係を強めるなら、中国が北と韓国の南北両方の国家安全を保障し、南北間の緊張を下げつつ和解を仲裁するというシナリオがあり得る。この場合、韓国も北も、中国が安全を保障してくれるので、トランプが北を攻撃するぞと言い続けても無視して南北和解を進められる。米国が激怒しても、韓国は、対北和解の前提となる米韓軍事演習の中止を宣言できる。そうならない場合、韓国は2019年に米軍から指揮権を移譲されて対米自立に踏み出すまで、米韓軍事演習をやめられず、トランプの北敵視につきあわねばならない(トランプが突然に態度を変えて北と交渉すると再び言い出せば別だが)。 (The True Danger of the North Korea Crisis: It Could Cost America Its Allies

 どちらにしても、2020年ごろには、韓国は軍事的な対米自立に踏み出している。同時期に、日本では米軍海兵隊のグアム移転が始まり、海兵隊を新設した自衛隊がこれに代わるかたちで、米国主導の対米自立を余儀なくされる。トランプが2020年の選挙で再選されなくても(米民主党の自滅状態が続き、再選されると私はまだ予測しているが)、トランプの4年間で、日韓はかなり対米自立の方に押しやられることになる。誰が何とけなそうが、トランプは尊敬に値するすごい政治技能を持っている。 (Japan may deploy new Marines force alongside Americans amid islands face-off with China



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ