他の記事を読む

TPP11:トランプに押されて非米化する日本

2018年2月1日   田中 宇

 1月23日、日本、豪州NZ、東南アジア、カナダ、中南米の、米国の同盟諸国である11カ国が、米国抜きで構成する自由貿易圏であるTPP11の交渉がまとまり、3月に発足することが決まった。TPP11の大きな特徴は、第2次大戦後の米国覇権体制下で初めて、アジア太平洋圏において、米国の同盟諸国が、米国抜きの国際体制を作った点だ。アジア太平洋と並んで米同盟諸国が多い欧州では、冷戦終結時から、米国抜きの国際体制としてEUが存在し、ゆっくりと(停滞しつつも)対米自立の方向に進んでいる。だがアジア太平洋では、今回のTPP11が初めてだ。(ASEANは米国が加盟していないが、対米従属の組織として結成されており、米国が影の主導役だ) (Trans-Pacific trade pact, without U.S., to be signed in March: Japan

 TPP11が「米国抜き」であることは、公式な確定でない。TPP11を主導した日豪は、今後も米国に加盟を要請し続けると言っている。トランプ自身、TPP11の交渉がまとまった直後、米国にとってもっと良い条件のものに改定されるなら、TPP11への加盟を検討すると表明した。だが、これは言葉だけだ。実際は、トランプが大統領である限り、米国はTPPに入らない。トランプは、すでに成立している自由貿易協定であるNAFTA(米加墨)や米韓FTAについて、もっと良い条件に改定できない限り米国を離脱させると言っている。トランプが出している条件は、カナダメキシコや韓国が許容できない範囲のもので、NAFTAも米韓FTAも再交渉が破談して解散する方向だ。 (Canada's Trudeau pokes Trump on NAFTA deal) (Trump opens door to US rejoining TPP

 NAFTAや米韓FTAの先例から考えて、TPPに関してトランプが「良い条件」と言っているものは、日豪など他のTPP11か国が受け入れられないものだ。トランプは、入る気がないのに「条件しだいでTPPに入っても良い」と言っている。日豪など、TPP11の交渉を苦労してまとめた諸国の政府筋は「入る気もないのに、ようやく交渉がまとまったとたんに、話を壊しかねない厄介なことを言い出してかき混ぜるトランプは、米国抜きで話をまとめた日豪などに対する嫌がらせをしたいのか??」と思っている。河野外相は、トランプの提案を一蹴した。

 トランプ政権は日本政府に対し、日米2国間のFTAを締結しようと提案し、準備的な交渉をしている。だが、日本は全く乗り気でなく「日米FTAより先にTPP11の交渉をまとめねばならない(日米FTAは後回しだ)」と経産相が公式に表明している。米国がオバマ政権だった時代、日本は、米国との2国間FTAを切望していたが、米国から断られていた。だが今、日本は、米国からの2国間FTAの誘いを断っている。よっぽど悪い条件の誘いなのだろう。 (In Davos, Trump Reopens Door to Pacific Trade Pact He Long Scorned

 TPP11は、昨年11月に交渉妥結の寸前まで到達していた。妥結直前、カナダが「米国とのNAFTAの再交渉にメドがつくまで待ってくれ。先にTPP11を妥結すると、トランプが怒ってNAFTA再交渉失敗の可能性が増す」という意味の意思表示を行い(表向きは人権問題で突然新たな条件を出し)、妥結が棚上げされた。NAFTAの再交渉はまだまとまっておらず、3月に、まとまるか破談かの結論が出ることになっている。 (Canada Says Won't Be Rushed on TPP Trade Deal at Asia-Pacific Meeting) (NAFTAを潰して加・墨を日本主導のTPP11に押しやるトランプ

 しかし今回、3月のNAFTA再交渉の結論を待たずに、カナダが翻意してTPP11の締結に同意し、TPP11の結成が決まった。なぜカナダは翻意したか。1月10日にロイター通信が「カナダ政府筋はトランプがNAFTAからの離脱を宣言する可能性が高まったと考えている」と報じた。TPP11は、それから2週間後に妥結した。カナダ政府は、トランプがNAFTA離脱の腹を決めたと考え、NAFTAをあきらめてTPP11の話をまとめることにしたのだろう。米国中心のNAFTAが終わり、米国抜きのTPP11が始まる。 (Exclusive: Canada increasingly convinced Trump will pull out of NAFTA

 トランプ政権が続く限り、米国はTPPに入らず、NAFTAも解散したままだろう。米民主党がコケたままなので、おそらくトランプ政権は2期、あと7年続くだろうが、その後、米国は別の政権になり、TPPに加盟し、NAFTAを再建するかもしれない。そうなると、8年間の「異常で例外的なトランプ政権」が終わって、米国が主導役に戻り、世界貿易の体制が米国中心に戻るのか??。対米従属な日本人は、そう思いがちだ。だが、おそらくもう米国は世界貿易の単独の中心に戻らない。トランプ政権が終わる前に、米国の金融バブルが崩壊して米国は覇権を低下し、その一方で中国などの新興諸国が台頭して多極化が進む。米国がTPPやNAFTAに入るかどうかは、今後あとになるほど、世界にとって重要でなくなる。 (債券から見える米覇権放棄とバブル依存の加速

▼世界経済の牽引役になる一帯一路の中国と強調せざるを得ないTPP11

 TPPはもともと、米国が交渉を主導していた時代、米国が中国を包囲し、米国から中国に覇権が移っていかないようにするための経済戦略の一つだった。だが今や、日本や豪州、カナダなどTPP11加盟国は、TPPが米国抜きの貿易圏として成立するのと同期するかのように、中国敵視をやめて、中国と協調する姿勢を強めている。安倍政権は、河野外相を中国に派遣して中国側との和解を推進しており、今年じゅうに日中韓の首脳会談、習近平の訪日を実現したい。米トランプ政権は最近、中国とロシアを明確に敵視する国家防衛戦略を発表したが、その直後、豪州政府は、米国の中露敵視から距離を置き、引き続き中露と協調すると宣言した。カナダも、中国との2国間FTAを提案するなど、親中国な姿勢をとっている。 ('We have a different perspective': Julie Bishop distances Australia from US on China, Russia threat

 米国主導の以前のTPPは中国敵視の体制として機能しようとしていたが、米国抜き・日豪主導のTPP11は、中国と協調する体制として機能し始めている。中国は昨年、30年間のユーラシア全体のインフラ整備計画である「一帯一路」を加速しており、それは、今後の世界における最大の投資計画となっている。第2次大戦後、覇権国となった米国は「マーシャルプラン」など、世界経済を牽引する大規模な投資計画を推進したが、今後の世界において、それをやるのは米国でなく中国だ。日本や豪州、カナダなどは、中国と仲良くしないと、一帯一路の巨大な投資や輸入の案件に参画させてもらえない。TPP11は、中国と協調する体制にならざるを得ない。安倍は昨年夏、TPP11は一帯一路と接合するための体制だと宣言している。 (China Builds Bridges and Highways While the U.S. Mouths Slogans) (中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本

 米国は、今後もしばらくは世界最大の商品市場だ。だから、もし米国がTPPを離脱せずに主導し続けてくれていたら、日豪加などは、中国の一帯一路に参加して儲けるためのTPP11でなく、米国市場に輸出して儲けるための、反中国的な旧TPPで満足していただろう。だがトランプは勝手にTPPを離脱してしまった。日豪加などはしかたなく、中国と協調するTPP11に衣替えした。トランプが、日豪加などの同盟諸国を、米国から遠ざけ、中国の方に追いやった。日本(や豪州)は、今後しだいに対米従属の維持が難しくなるとともに、中国と協調していくことになる。 (Why Australia and Asian allies are turning away from US to China) (Bilateral visits set to deepen China-Japan ties

 日本は、かつて2014年に中国が国際開発銀行であるAIIB(アジアインフラ投資銀行)を創設した際、米国と一緒になってAIIBをボイコットして非加盟とした。だが最近、日本主導の国際開発銀行であるADB(アジア開発銀行)は、AIIBと協力する姿勢を強めている。 (ADB, China-backed AIIB to co-finance more projects this year) (日本から中国に交代するアジアの盟主

 TPP11諸国は親中国の方向だが、対照的にトランプの米国は、安保面で中露を敵視する国家防衛戦略を発表するとともに、中国などからの太陽光パネルや洗濯機の輸入に高関税をかけるなど、中国に貿易戦争をふっかけている。これは、これまであまり米国をライバル視せず、米国の経済覇権下でかまわないと考える傾向が残っていた中国を、米国と異なる地域覇権国を目指す方向に押し込んでいる。トランプは隠れ多極主義者である。 (U.S. Commerce Secretary Slams Beijing for Protectionist Actions Under Free-Trade Rhetoric

 安倍政権は、経済的な理由から日中関係を改善する一方で、尖閣諸島の領有権を主張する「領土展示館」を開館し、中国側がこれを批判、対立を生んでいる。対米従属の日本では、軍産が発する中国敵視のプロパガンダが強く、安倍政権は、大っぴらに中国と仲良くできない。だから安倍は、目くらましとして尖閣で中国と対立する構造を維持し、中国にも対日批判を演じ続けてもらい、日中関係の改善を目立たないようにしている。日豪インドによる中国包囲網の構想も、同様の目くらましの色彩が強い。 (Japan to boost ties with high-level China visit) (Abe’s outreach doesn’t change policy on China



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ