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安倍辞任の背景にトランプの日米安保破棄?

2020年8月28日   田中 宇

8月28日、安倍首相が辞意を表明した。持病の悪化が理由だという。たしかに安倍は最近、何度も検査のために病院に行っている。しかし、安倍は検査後も、話したり歩いたりできているわけで、急に首相としての任務がこなせなくなったわけではない。安保面の日米関係が、安倍とトランプの個人的な関係に依存してきたことを考えると、安倍が辞めてしまうのは日本の安全保障にとってまずいことだ。安倍以外に、気難しいトランプと親密な関係を持っている政治家は日本にいない。日米安保の円滑な維持を考えると、安倍は病気を悪化させないようにしつつ続投するのが筋だ。対米従属派の全体がそう思っているはずだ。 (従属先を軍産からトランプに替えた日本

しかし、もしトランプが日本と安倍に対する態度を変えており、安倍とトランプの関係が終わりになっているとか、トランプが安倍に在日米軍の撤退や日米安保の破棄を言ってきたなら、話は別だ。最近の記事に書いたように、11月の米大統領選挙は、マスコミのバイデン優勢の報道と裏腹に、トランプが再選される可能性が高い。2期目のトランプは、日本や韓国からの駐留米軍の撤退を具現化していきそうだ。すでにトランプは安倍に対して冷淡になっている可能性がある。日本側が米軍を引き留めようとすると、トランプに意地悪される。トランプは筋金入りの覇権放棄屋・隠れ多極主義者なので、トランプを翻身させる日韓からの米軍撤退をやめさせるのは不可能だ。 (米大統領選挙戦を読み解く

安倍は、今後の米軍撤退を引き留めようとしてトランプから意地悪されて人気を下げるより、その前の今のタイミングで辞めることにしたのでないか。病気を理由に辞める話を作ることにして、何度も病院に検査に行き、何時間も病院に滞在して病気の演技をしたのでないかという感じもする。 (加速するトランプの世界撤兵

トランプ以前は、米国の覇権と安保の戦略を軍産複合体(諜報界)が牛耳っていた。日本の外務省は軍産の手下であり、米軍産と日本外務省との組織的な関係によって日米関係・日本の対米従属が維持されていた。トランプは、軍産に喧嘩を売って就任し、ロシアゲートなど軍産からの攻撃を跳ね返して逆におおむね軍産を退治して今に至っている。2016年のトランプ当選後、日本外務省は米国の新たな権力中枢と親密にできるルートを喪失した。外務省が呆然としているところに安倍が訪米し、個人的にトランプに会って親分子分の契りを結んでしまい、外務省や軍産を経由しない日米の同盟関係を作った。それ以来、日本で米国の権力中枢つまりトランプと最もつながっているのは安倍である。安倍以外の政治家は、トランプとの強い関係を持っていない。安倍はトランプとの関係性をテコに、日本で独裁的な権力を維持してきた。 (世界と日本を変えるトランプ) (ロシアゲートで軍産に反撃するトランプ共和党

安倍の今回の突然の辞任は、トランプと安倍の関係、もしくは日米の安保関係が終わりになったのでないかという疑念を抱かせる。安倍は、トランプに何らかの形で日本との関係を切ったので辞めるのでないか。そうでなければ辞める必要などない。従来の日本にとって最重要なことは、米国との同盟関係だ。病気がちでも、トランプからの電話を受けられれば首相をつとめられる。 (Pentagon Gives Trump Options For Cutting Troop Levels In South Korea

トランプは、世界からの撤兵を加速している。ドイツ駐留数を大幅に減らし、アフガニスタンやイラクからの撤兵も進めている。「これらはトランプが勝手に言っているだけで、国防総省は実際の駐留の減員をやっていない」という指摘がある。そうかもしれない。それでも事態は大して変わらない。実際の駐留米軍数でなく、トランプが各国からの米軍撤兵を言い続けていることが、米国の覇権を低下させ、同盟諸国が安保面で米国と米軍に頼らなくなり、撤兵したのと同じ効果を持ち、最終的な撤兵へとつながる。 (US Troops Withdraw From Major Iraqi Base) (Trump Confirms 4,000 US Troops To Withdraw From Afghanistan By November Vote

日本と韓国について、トランプは従来、いつか撤兵したいと言うだけで、実際の撤兵計画まで至っていなかった。もしかするとトランプは今後、11月3日の米大統領選挙の投票日までに、日韓からの具体的な撤兵計画を言い出すかもしれない。世界からの撤兵を主張した方が有権者の受けがいいからだ。いまだに軍産に絡め取られている民主党のバイデン陣営も、実際の撤兵を言わないまま、戦争はもうしないと言っている。そう言った方が人気が出るからだ。 (Trump And Democrats Both Promise End To ‘Forever Wars’

トランプが選挙対策として9-10月に日韓からの撤兵を従来より強く言い出すつもりなら、それより前の8月末の今のタイミングで安倍が辞任を表明するのは合点がいく。しかし、トランプがそこまで言うかどうかはわからない。トランプはすでに在韓米軍の減員について検討している。 (Okinawa: Will The Pandemic Transform US Military Bases?) (Pentagon considers 'adjustments' to US troop levels in S Korea

日米の安保関係は、今年6月に安倍政権が米国から買った地上イージスのミサイル防衛システムを途中でやめることにしたあたりから、ぎくしゃくしている。7月には、在日米軍の新型コロナウイルスへの対策が不十分だと日本政府が苦情を表明し、日米の安保関係がさらに齟齬をきたしている。これらは、トランプが日本から米軍を撤退しようとしていることに対する日本側からの不満の表明なのかもしれない。トランプは軍産を退治した筋金入りの覇権放棄屋なので、不満を表明されても米軍を撤退していくし、不満を表明する奴には倍返しで意地悪する。 (Japan: US military coronavirus policy has multiple problems) (トランプ、安倍、金正恩:関係性の転換

日本が米国の言うことを聞きたくなくなっているもうひとつの分野は、コロナ対策としての自粛・経済停止を米国から強要され続けていることだ。日本は、世界的に見ても新型コロナに感染発症しにくい国民であり、すでに集団免疫にも達しており、米国から強要される経済停止策など必要ない。スウェーデン式の方が良い。米国から無意味な経済停止を強要され続けるほど、日本経済の自滅がひどくなり、すでに経済を成長の状態に戻している中国にどんどん抜かれていく。日本はコロナ対策の面でも、そろそろ対米従属をやめねばならない。 (米中逆転を意図的に早めるコロナ危機

今後、後任首相の選定になるが、対米従属の色合いが強い人が次期首相になると、トランプからのいじめがひどくなり、短命に終わるか、対米従属からの離脱を余儀なくされていく。安倍は従来、米国との関係を維持しつつ中国との関係を強化してきた。トランプの米国が安保面で日本を見捨てる傾向を加速しそうな今後、日本側は、米国との関係を軽視して中国との関係を強化する親中国派を次期首相にする可能性もある。この場合、トランプが望む在日米軍の撤退に、日本はそれほど反対せずに事態が進む。 (Trump Has Damaged the U.S.-Japan-South Korea Alliance—And China Loves It

今後注目すべき点は、安倍がやめた理由が、トランプの日本に対する態度が変わったからなのかどうか、トランプの言動からうかがえるかもしれないことだ。安倍の辞任が、トランプの覇権転換策と全く関係ないとは考えにくい。だが、その確たる証拠もないのが現状だ。



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