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偽悪戦略で世界秩序を創造的に破壊するトランプ
2026年1月17日
田中 宇
年初来、トランプ米大統領が思い切り「世界の悪者」になっている。既存の「リベラル世界秩序(英国系の米単独覇権体制)」にわざと逆らってぶち壊す「偽悪戦略」をやっている。世界最強の覇権国の大統領の「悪事」の連発を、誰も止められない。
(Ron Paul: Making Imperialism Great Again?)
トランプの「悪さ」を真に受けて本気で怒っている人々は、彼の策略の深さに気づいていない。既存の英国系覇権は、支配維持のため、マスコミなど権威体制を使って人々を洗脳して歪曲した善悪観を信じ込ませてきた。為政者が再選を目指して「善人」であろうとする限り、英国系に従属するしかない。
世界を体制転換するには「悪人」になって、軽信的な人類から憎まれるしかない。有権者から憎まれて選挙で落とされるリスクを抱える。だが、トランプはもともと「悪人」を演出している。「悪事」を重ねても国内で人気が落ちにくく、偽悪戦略にうってつけだ。
(ベネズエラ支配 成功への道)
英国系は戦後ずっと、世界の善悪観の歪曲を続けて覇権に固執し、世界経済の発展や新興諸国の繁栄を阻止し、冷戦終結後もそれに固執したため、覇権解体と、次の体制作りとしての多極化が必要になった。
それが911以来の四半世紀の世界の激動の本質だ。トランプは、この流れのクライマックスを演出するために大統領になった。
2期目の大統領になって2年目に入る今年、トランプは、英国系覇権を創造的に破壊して多極型の新世界秩序に移行するための偽悪戦略を開花させた。
(On Foreign Policy, Trump 2.0 Is Dangerously Unrestrained)
偽悪戦略の皮切りは、1月3日のマドゥロ逮捕によるベネズエラの政権転覆だ。トランプは、ベネズエラの石油利権を強奪するため、国家主権を露骨に踏みにじって侵攻してマドゥロ大統領を不当拘束(逮捕)し、濡れ衣の麻薬取引の罪をなすりつけてマドゥロを米国で裁きつつ、後任のロドリゲス大統領代行を傀儡化している。
国際法や世界秩序を無視した、とんでもない破壊策だと(英国系の)マスコミ権威筋や、(英国系覇権の自滅で得をする)中露などが非難している。実のところ、ロドリゲスはマドゥロと同じ左翼であり、トランプのベネズエラ戦略は、主権侵害であるものの完全な政権転覆でない「ソフト転覆」だ。
(イランは転覆されるのか?)
ベネズエラの左翼勢力としては、権力を維持できるうえ、もう米国から非難制裁されず、米国から積極支援されて石油産業を立て直せる。マドゥロは失権したが、もともと彼は英雄的なチャベスの家来でしかなく、チャベスの死去で権力が転がり込んできた棚ボタな人だ。
英国系は「国家主権の侵害だ」とトランプを非難するが、英国系自身、戦後ずっと、西欧や日韓やアジア・アフリカ諸国などの主権を侵害し続け、傀儡化してきた。
英国系は、各国の主権を侵害しつつ、国家主権を尊重しているという「偽善」を世界に軽信させてきた。トランプは逆に、ベネズエラに対する意外にソフトな介入と経済テコ入れ策を、極悪な軍事侵攻や主権侵害のように世界に報じさせる偽悪戦略をとっている。
(Trump Kicking BRICS Out Of The Americas)
「しかしトランプは昨秋来、カリブ海で、無実の船舶に無根拠な麻薬運搬の濡れ衣をかけて攻撃沈没させているじゃないか。極悪だ」とリベラル様が言ってきそうだ。
しかしトランプは、これらの船舶攻撃を含むベネズエラ侵攻の全体で、200人ぐらいしか殺していない。「しか」とは何だ。200人も死んでるんだぞ、ってか??。英国系は、既存のいろんな軍事介入で、その100倍ぐらいずつ殺してるよ。イスラエルにはかなわないけど。
(トランプのベネズエラ攻略)
トランプは、ベネズエラを皮切りに、中南米の反米左翼の諸政権を次々にソフト転覆しようとしている。今後の多極型世界において、米国は南北米州の「極」になる。米国は、中南米をどんな地域にするかを決められる。
コロンビアのペトロ大統領は早速、ソフトに転覆してほしいとトランプにすり寄っている。時代遅れなリベラル様たちが軽信的に怒っている間に、世界の転換はどんどん進んでいる。
(Trump speaks with Colombian president amid diplomatic tensions)
トランプのベネズエラ攻撃は、英国系の世界秩序を破壊する策であると同時に、英国系が嫌う多極型世界を実現するための米州主義の策でもある。
米州主義は国家主権の侵害だ。許さないぞ、ってか??。何度も言うけど、既存の英国系も、世界中の諸国の主権を侵害しつつ「尊重してる」と偽善を言ってきた。
リベラル様たちは「耳障りの良い世界体制」を好むだけで、本質が見えてない。「耳障りの良い」は誤用だって?。言葉狩りしたい権威主義者は私の記事を読むのやめなよ。英国系だけでなく、善人のほとんどは偽善者だ。元祖小役人である仏教界とか。
(印度は意外と居心地良い)
トランプはベネズエラ絡みで、英国系の覇権体制の一つであるノーベル平和賞の権威を、繰り返し踏みにじっている。
ノーベル委員会は毎年、人権や民主主義や国際政治の分野で英国系の善悪観を強化する方向でノーベル平和賞の授賞者を決めてきた。英国系の覇権強化策というドロドロの政治。善悪歪曲なのに、政治を超越した崇高な善行であるかのように見せているノーベル賞。実はとても偽善で汚い。
(Trump To Meet Venezuelan Opposition Leader María Corina Machado Next Week)
トランプは昨年、自分こそノーベル平和賞にふさわしいと繰り返し放言し、オレに授与しろとノーベル委員会を加圧した。加圧自体がノーベル賞の権威を壊すトランプの偽悪戦略だった。
ノーベル委員会が拒否したので、トランプは、それならベネズエラの右派(トランプ系の米傀儡)野党人士マリアコリナ・マチャドに授与しろと加圧した。
ノーベル委員会など英国系は、仇敵のトランプやリクード系の傀儡であるマチャドも嫌悪していたが、加圧に負けてマチャドに授賞した。負け惜しみな英国系は、祝賀会をやらなかった。
マチャドは受賞の直後から「この平和賞は、私よりもトランプにふさわしい。トランプに贈呈したい」と言っていた。
トランプは、1月3日にベネズエラのマドゥロを拉致して政権転覆した後、次の政権をマチャドに取らせるのかと思ったらそうでなく、ロドリゲスの昇格を認めて左翼政権を維持する現実路線を採った。
マチャドはハシゴを外されて捨てられたが、心底トランプを尊敬しているらしく(もしくは、まだ自分に政権が転がり込んでくる可能性があると考えて)、トランプにノーベル平和賞を贈呈したいと言い続けた。
トランプ陣営は、この状況を見て新たな偽悪戦略を思いつき、マチャドを米大統領府(ホワイトハウス)に招待し、平和賞のメダルをもらうことにした。1月16日、マチャドはトランプにメダルを贈呈した。ノーベル委員会は激怒し、ノーベル賞は譲渡できないものだと表明した。
(Nobel committee issues defiant message after Maria Corina Machado gifts Peace Prize to Trump)
オレによこせと言って断られると傀儡のマチャドに授賞させ、それを自分に贈呈させたトランプ。一見、権威を渇望するトランプの子供じみた醜態のようだが、ノーベル賞が英国系の覇権の道具であることを見ると、英国系の覇権を破壊するトランプの偽悪戦略であることがわかる。
(Venezuelan Nobel winner gifts her medal to Trump)
トランプの米州主義の発露としては、グリーンランドをデンマークからもぎ取ろうとする策もある。この策は、トランプの領土拡張の欲望だとか、北極圏の地下資源の利権あさりだとか言われているが、それらの見方はトランプの偽悪戦略に引っかかっている。
領土や利権の帝国主義のように見せて、トランプは英国系覇権の重要な要素であるNATOの欧米同盟を内紛させて解体しようとしている。
欧州(英国とその傀儡である西欧。英欧)は、トランプの黒幕であるリクード系によって、敗北必至なロシア敵視とウクライナ戦争の自滅構造にはめ込まれている。英欧は、自滅を先送りして延命するために、米国の軍事力に頼らざるを得ない。トランプと対立するわけにいかない。
(Trump digs in as Europe sends troops to Greenland)
デンマークは、グリーンランドを奪われたくない。だが、その後ろにいる英国は、トランプとの対立を避けるため、デンマークに対し、グリーンランドをあきらめろと加圧している。
英国は、トランプの米軍をウクライナ戦争に引きずり込み、対露和解したトランプをロシア敵視に引き戻し、NATOや欧米同盟、つまり英国系の覇権を蘇生したい。
トランプは、英国の思惑を知りつつ、対露和解と露敵視の間を行ったりきたりする演技を続けている(裏でプーチンと連絡をとり続けている)。
(UK rejects French, Italian calls to restore diplomatic ties with Russia)
トランプがウクライナ戦争とグリーンランドの演技を続けているうちに、西欧では、ドイツもフランスもイタリアも、ウクライナ戦争を続けてもトランプの米国を引き戻せず、ロシアを倒せない以上、対露和解するしかないと考え始めている。
しかし、それでは英国が覇権を決定的に喪失してしまう。露敵視を続けたい英国と、対露和解した方がいいと考える独仏伊が内部対立し始めている。
(Why are EU leaders suddenly being nice to Russia?)
ここで、トランプは独仏伊に味方して対露和解を進めるかと言えば、そうでもない。トランプは、英国系(英欧)の支配層(左右リベラル派のグローバリスト)を決定的に潰して英国系覇権を不可逆に消滅させたいので、ウクライナ戦争の構図を長く続けたい。
だからトランプは英国の肩を持ち、英欧がウクライナに派兵するなら米軍も支援を拡大すると言い出している。トランプは英欧を揺さぶり続けてウクライナ戦争の構図を長期化させ、英国系の消滅まで持っていきたい。
(What's Behind Washington's Signaling Support For NATO Troops In Ukraine?)
トランプは、1月19日から欧州などのエリート(グローバリスト)たちが集まって行われるダボス会議に4年ぶりに出席する。
ダボス会議の主催者であるWEF(世界経済フォーラム)は英国系のエリート団体だ。WEFはリクード系に入り込まれ、無根拠な地球温暖化対策やコロナ対策、移民流入策など、経済を自滅させる超愚策の数々を欧州諸国にやらせた。
WEFやダボス会議は、創設者のチャールズ・シュワブが微罪なスキャンダルで辞めさせられた後、用済みな機関になっていたが、今回、偽悪戦略で英国系の徹底破壊に乗り出したトランプが再び拾い上げ、WEFは自滅踊りをまたやらされる。
(Trump To Speak At Globalist WEF Forum)
隠れ多極派のトランプが大統領になり、覇権運営担当の諜報界がリクード系に乗っ取られて英国系が追い出されても、まだ米国は覇権国だ。
トランプは偽悪戦略の一つとして「世界を支配しているのはオレだ。オレの言うことを聞かない奴は、政権転覆や高関税などの制裁をする」と半ば公言している。
(高関税策も、悪事の誉れ高い「保護主義」であり、WTOの協定違反で、戦後の英国系覇権体制の一部だった自由貿易体制を正面から潰しにかかる「偽悪戦略」だ)
(From Tax-Cuts To Tariff-Stability: US Economy Poised For Solid Growth In 2026)
トランプが意図的に悪事を重ね、世界秩序を破壊しても、米国側の欧州や日韓などの同盟諸国は、トランプに敵視されたくないので、できるだけ批判せず黙っている。
そんな中で「米国は世界秩序や国際法を破壊している。世界は(米国に追随せず)国際法の体制を守るべきだ」「世界の従来の対話体制は、武力がものをいう体制に取って代わられている。世界の状況が悪化している」ときちんと指摘しているのはロシアのプーチン大統領だ。
(Putin warns global situation 'deteriorating')
戦後の(善悪観を操作する)英国系覇権下では、ほとんど常に、米国(米英)が「善」でロシア(ソ連)が「悪」だった(冷戦終結の前後以外)。しかし今や、トランプのせいで、米国が悪でロシアが善に転覆している。
イランに関しても、トランプは偽悪戦略の一つとしてイスラエルの傀儡であることを露呈して政権転覆を扇動し、軍事攻撃を準備しているが、対照的にプーチンはイランとイスラエルを仲裁して平和を維持しようとしている(成功しないと知りつつも)。
(Putin holds telephone talks with Netanyahu, Pezeshkian)
米露の善悪逆転覆自体が、従来の英国系覇権の善悪観操作を無効にするトランプの偽悪戦略の一つだ。トランプは意図的にプーチンを押し上げている。
トランプは、世界の多くの国に、米国側より非米側の方がまともだと感じさせ、米英覇権を意図的に低下させている。
トランプは最近、国連傘下の国際機関から米国を脱退させた。欧州(P5の英仏)も露中敵視を続けつつ自滅を加速しており、国際信用を失っている。P5(安保理常任理事国)など国連の中で、米英仏など米国側が主導権を失い、露中など非米側に主導権が移っていく。
米国(リクード系のネオコン)が単独覇権主義を宣言した911以来、米国は25年間、国連を侮蔑し続けてきたが、今その「成果」があらわれている。
(Trump pulls US out of 'racist' UN forum that pushed 'global reparations agenda')
このほか、トランプが米独立250周年に自分の「勝利」を記念するかのような凱旋門をワシントンDCに作ることも偽悪戦略だ。
また、米連銀(FRB)のパウエル議長が昨年の連銀本部改修工事で(自分用に)豪華な施設を作らせ、その件で議会で偽証した容疑で、トランプが司法省に捜査させて、それが「トランプは中間選挙で勝つために、パウエルを加圧して無理な利下げをやらせて株価をつり上げたいだけだ」という英傀儡マスコミなどのトランプ非難の報道の嵐を生んでいる件も、トランプの偽悪戦略だ。
(How Independent Is The Federal Reserve?)
従来の英国系覇権下では「中央銀行の政府に対する独立」が各国に命じられていた。各国の中央銀行は、自国政府から独立しているが、同時にBIS(国際決済銀行)など英国系の中銀ネットワークが各国の中銀群を隠然と支配している。
「中央銀行の独立」は、英国系が金融面で世界を支配し、各国を英覇権に従わせるための仕掛けだった。この仕掛けを権威づける経済学も、丸ごと英傀儡の(インチキな)理論だった(文科系の学問の多くが同様のインチキ。英覇権消失とともに大学も無意味化。大学万歳)。
トランプは意図的に、パウエルに針小棒大な犯罪容疑をかけつつ利下げしろと加圧し、反トランプな英傀儡マスコミに叩かせ、実際にパウエルやその後の米連銀に利下げやQEをやらせていくことで、中央銀行の独立と、その背後の英覇権の構造を壊していく。
(Fed Subpoenaed As DOJ Launches Criminal Probe Into Jerome Powell, Who Vows To "Stand Firm")
トランプは、中央銀行の独立のインチキを打破するのでなく、規範に対して偽悪的で露骨な違反を拡大して破壊する策をとっている。
トランプは、同様のことを地球温暖化対策に関しても続けてきた。温暖化人為説が無根拠であると正面から反撃するのでなく、石油利権と偽悪的に結託して油田開発やパイプライン建設を進め、温暖化対策を踏みにじりつつ無効化してきた。
イスラエルのガザ戦争などパレスチナ抹消策も、同様の趣旨が感じられる。
(米連銀のQE再開)
中央銀行も温暖化も、学問の世界では英傀儡が圧勝し、インチキを暴いて正しい反論をする勢力が政治的に敗北し、完全に無力化されている。そのような状況下では、正攻法が効かない。偽悪戦略しか残されていない。
トランプは偽悪戦略で、英国系が戦後の世界を支配してきた善悪歪曲の体制を見事に破壊している。
リベラル左翼やマスコミやイスラム主義者など(うっかり)英傀儡な人々は、激怒するが敗北傾向を変えられず、政治力も失い、激怒と絶望が悪化して自分たちの寿命を縮めていく。右派は楽しく生きられる。
偽善は動物的な本能に沿っているので簡単だが、偽悪は不合理に感じられるので難しい。トランプには長生きしてほしい。
(UK Government Video Game Warns Kids They May Be Terrorists For Questioning Mass Migration)
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