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イラン強硬派政権を弱めた上で永続させる?

2026年4月21日   田中 宇

イスラエルは最初から、イランの強硬派の現政権(革命防衛隊)を弱体化した上で永続させる策略で、トランプを誤情報で動かしつつ、2月末からのイラン戦争を始めたのでないか。そのような考えが私の中に出てきている。
イスラエルはトランプの米国を巻き込んでイランを攻撃してきたが、その具体的な目的は、イランの国家解体(恒久内戦=リビア型、もしくはクルドなどによって複数に分割)や、政権転覆(親米化。現イスラム共和国体制を残すソフト転覆策、もしくは残さない完全転覆)でなく、現体制を弱体化した上で残して形式上の恒久対立にすること(ガザ型)でないか。

イスラエルはすでにガザ戦争で、ガザの市街地を完全に破壊しつつも支配者のハマスを弱体化した上で残し、その状態をずっと維持している。ガザ戦争を終わらせると、イスラエルは世界からガザの戦後復興を迫られるが、ハマスが残っている限りそうならない。
イランは国家だがハマスは国家以下の民兵団だ。その違いはあるが、他の構図は同じだ。防衛隊政権を残す限り、イスラエルは米国と世界にイラン敵視の戦争継続を強要できる。イランと終戦してしまうと、その後のイランはどんな親米派の政権になろうとも復興し、世界との貿易を再開して兵器類を再備蓄し、いずれイスラエル敵視を再開する。
イスラエルは、イランだけでなく、レバノンのヒズボラも弱体化したうえで敵として温存するつもりかもしれない。

イスラエルはガザ戦争でガザ市民を(たぶん100万人以上)大量殺害する巨大な人道犯罪を意図的に進めたが、世界から大して非難されていない。市民やマスコミは激怒しているが、国家の単位でみると、世界のごく一部しかイスラエルを非難敵視制裁しておらず、残りの国々は黙認している。
イスラエルにとってガザ戦争が「予行演習」だとすると、イラン戦争でさらなる人道犯罪をやっても世界(市民でなく国家の単位)は黙認する。懸念を表明する程度だ。人道主義をふりかざして敵を潰してきた既存の英国系覇権体制の方が崩れていく。

イランの好戦政権は、今回の戦争でイスラエルの直接の脅威にならない程度まで弱体化させられたが、政権は延命し、今後ずっとホルムズ閉鎖などサウジアラビアなどペルシャ湾岸のアラブ産油国が石油ガスを出しにくい状況を維持する。
トランプ米大統領は、米諜報界を牛耳るイスラエルに拒否権を握られ、イランとの和解を禁じられている。米国とイランの交渉は妥結しない。
米イスラエルは中露を含む世界にイラン制裁の継続を強要し、イランは復興できない。石油ガスを出せないアラブ産油国も弱体化し、中東での覇権はイスラエルに集中する。(トルコは表向きイスラエルと対抗しつつ、実はすでにイスラエル傀儡)
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トランプは国内政治的に窮地だが、リクード系(諜報界)は米国政治の体制や状況を転換・歪曲する能力に長けている。今後の揺れ返しがあり得る。イスラエルは米諜報界を握っているので、トランプが負けて民主党政権になってもイスラエルの言いなりになる。
今回の戦争で、アラブがダメになった分、米国の石油ガス輸出が急増している。日本などが米国から石油ガスを買う。トランプと親しいエネルギー産業は大喜びしている。トランプは意外に強い。

今回の戦争で米イスラエルは、イランの大型の兵器類の多くを破壊したようだが、無人機や短距離ミサイルなど小型の兵器類は大量に隠匿しておきやすい。イランは、ホルムズ海峡の船舶や、対岸のアラブ産油諸国の施設を、小型兵器で攻撃し続けることができる。
米諜報界(を握るイスラエル、リクード系)は、そのことを事前に知りつつ今回イランを追い詰める戦争を始めた。イランは降参せず、残っている小型兵器を使ってホルムズ海峡を封鎖し、アラブ産油国の施設を破壊すると脅し続けている。リクード系はトランプにそこまで教えずに戦争させた可能性がある。
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トランプは、ベネズエラで成功したソフト転覆(親米化)がイランでも成功すると考えてイスラエルが望むハメネイ殺害を挙行したが、ソフト転覆は失敗した。
イランの上層部では、強硬な好戦派の革命防衛隊が、以前の上司だった聖職者ら現実派を押しのけて権力を握り、ソフト転覆の親米化とは逆の、米イスラエルと最期まで戦う敵視姿勢を強めた。
軍事的にも政治的にも、イラン戦争は失敗だったと喧伝されている。トランプの共和党は内外からの支持を失い、秋の中間選挙での惨敗など失脚への道にいると言われている。
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トランプ(や間抜けな私)は、イランでソフト転覆が成功すると思ったかもしれないが、長くイランを監視してきたイスラエル(米諜報界リクード系)は違う。
リクード系は、イランやヒズボラの幹部たちの居場所を正確に把握しており、今回の戦争で50人以上のイラン上層部の要人をピンポイントで殺している。対するイランは、イスラエルの要人を一人も殺せていない。
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このようにリクード系は、乗っ取った米諜報界の力を駆使してイランの状況を把握してきた。イランの大型兵器の大半は破壊されたと推測できる。
リクード系はイランに関して、ソフト転覆が成功しないことや、(遠くのイスラエルに届く)大型兵器を破壊しても、小型兵器で近くのペルシャ湾を攻撃・抑制し続けることを知っていた。その上でリクード系(米諜報界)は、トランプにこれらの事実を知らせず、イラン戦争に突っ込ませた。
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トランプ政権でも諜報長官のトルシ・ガバードは、このあたりの状況を察知してイラン戦争に反対だったようだが、明言すると更迭されるので黙っていた。
タッカーカールソンやミアシャイマーやジェフリーサックスら、諜報に詳しい人々は、イスラエルがトランプを動かして米国の得にならない戦争に突っ込ませたと言ってイスラエルを非難している。非難は正しいが、政治力としては彼らよりも、米諜報界を握るイスラエルの方が強い。
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トランプ政権はイランと停戦交渉したが、イランが出してきた停戦案は英語版とペルシャ語版で微妙に違っていて、ペルシャ語版ではイランがウラン濃縮を続けて良いことになっている。2回目の停戦交渉の開催もおぼつかない。イラン戦争は断続的に続く。
ペトロダラーの終焉とかドル崩壊とか言われているが、諜報界リクード系は米連銀(FRB)を乗っ取り、米国の金融バブル膨張を裏QEなどで維持する力量も持っている。スパイの王様である米諜報界は究極のインサイダー取引者だ。
ドルはどんどんインチキになっているが、だからこそ崩壊せずバブル膨張し続ける。いつかきっと崩壊する。しかし、それはたぶん今年ではない。
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