史上最悪のアマゾン森林火災

97年11月13日  


 ブラジルのアマゾン川上流では毎年6-10月、大豆などの畑や放牧用の牧草地を作るため、森林や薮を燃やす作業が行われる。ブラジルでは1980年代にアマゾン開発を急速に進めたため、熱帯雨林の減少が世界的な問題になり、1990年代に入ってからは、人間の手が入っていない熱帯雨林を燃やさないような政策に転換している。

 だが今年は、エルニーニョによる異常乾燥のため、自分の土地だけ燃やそうと考えて農民がつけた火が、予定通り消えずにどんどん広がってしまい、森林火災になるケースが続発している。10月にアメリカの人工衛星が撮った写真を分析したところ、今年は例年より約30%多くの火災が発生し、インドネシアより広い範囲で燃えているという。通常、熱帯雨林の中は湿度が95%ぐらいあるのだが、今年はそれが40%前後に下がってしまっている。

 エルニーニョとは、南アメリカの沖合い、赤道付近の太平洋海面の水温が平年より上昇する現象。南北アメリカ、東南アジアからアフリカに至るまでの広い地域で、日照りや洪水などの異常気象が発生する。エルニーニョの影響が最も大きくなるのは11月から翌年の1月にかけてだが、すでに今年のエルニーニョは、近代気象観測が始まって以来の、過去150年間で最大規模になるとの指摘がある。

 ブラジルの森林火災は、主にアマゾン上流のペルーやボリビア国境近くで発生している。だが、その煙は数百キロ離れたアマゾンの中心地マナウスまで到達し、マナウスでは10月、空港への離着陸が一時困難になり、飛行機が運休した。子どもの健康被害を考えて休校となる学校も多くあり、インドネシアやマレーシアでおきた煙害と同様、呼吸困難で病院に担ぎ込まれる人も多かった。

●減ったはずが実は増えていた森林破壊

 ブラジル政府によると、燃えた地域のうち、植林された森林は約20%、熱帯雨林が10%で、残りは薮になった農地などであり、熱帯雨林に対する被害は大きくないとしている。だがブラジルでは、火災のほか、森林の違法伐採や道路や鉱山の開発によっても熱帯雨林が失われている。

 1992年のブラジル環境サミットの前後から、ブラジル政府は森林破壊には歯止めがかかったとしていた。だがブラジル政府はその裏付けとなるデータを発表せず、ようやく昨年になって1994年のデータを発表したところ、1991年に比べて森林破壊の面積は34%も増えていた。

 今年、アマゾンで森林火災が多いのは、異常乾燥によるもののほか、大豆価格の上昇による作付けの増加という要因があると考えられる。エルニーニョの副作用として、ペルーの沖合いでアンチョビというイワシが獲れなくなるということがある。そのため、アンチョビに代わる蛋白質として、大豆が利用されることが多くなり、大豆価格が上がるのである。

 また、ブラジルは通貨危機の原因となる財政赤字を増やさないため、政府予算を切りつめているが、この影響で、熱帯雨林を保護するための予算が64%も削られてしまった。そのため、森林の違法伐採に対して課している罰金を徴収する人員が足りなくなってしまい、罰金を支払うべき人々のうち、6%しか払っていないのが現状だ。

●発展途上国の貧農に、先進国の豊かな人々が抗議できるか?

 ブラジルは世界最大の熱帯雨林を抱えており、その中心であるアマゾン川流域は「地球環境の肺」とも呼ばれ、伐採や焼失に反対する市民グループが、世界中の先進国で活動している。

 だが一方で、アマゾン奥地に入植し、森林を燃やして大豆畑や牧場を作る人々の多くは、他の地域で小作農として働いていた貧しい人々で、生活を楽にしたいと考えて、アマゾンに引っ越して開拓農業を始めた人たちだ。これはインドネシアで森林を燃やして農業をしている人々も同じである。森林消失の原因には、企業による違法伐採や開発もあるとはいえ、貧農の人々に対して、先進国の豊かな人々が「農業やめろ」と言うことには、作者としてはどうも抵抗があるのだが、いかがなものだろうか。

 
田中 宇

 


関連サイト

リオ アマゾナス コーポレーション
森林破壊や鉱害などアマゾンの環境問題について説明している。

Rainforest Action Network - Amazon Program
アメリカの市民運動によるアマゾンの熱帯雨林保護活動(英語)





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