○宙に浮くチェルノブイリ型原発の閉鎖計画 97/02/22
○国家の威信に必要なくなった原子力産業のたたき売り 97/02/22
(以下、未完成)
○原発廃止に踏み出したスウェーデンの激論
○北朝鮮への核廃棄物投棄めぐり対立する韓国と台湾
○核廃棄物の最終保管責任めぐり米国の政府と電力業界が激突
○日本でも夢敗れた核燃料サイクル
ほぼ同時に起きたこれらのできごとは、相互に関係を持っているのだろうか。大きな歴史の流れと関係しているのだろうか。
原子力発電はもともと、米ソ対立の焦点となった核兵器製造の副産物として開発されただけに、北朝鮮や旧ソ連で起きたことは、明らかに冷戦の終わりと関係したできごとだ。また、日本やスウェーデン、米国で起きていることは、原子力発電が「夢のエネルギー」と呼ばれる時代が完全に終わったことを意味している。
原子力は今や「必ず儲かる」と銘打ったねずみ講が失敗するのと同じく、最初に永久機関のように見えたのはペテン的な話に騙されたのであって、実は後世に負担を残すだけの「エネルギーの借金」だったことが明らかになりつつある。
ウクライナの北部にあるチェルノブイリ原発が1986年に事故を起こし、放射能を欧州全土に撒き散らしてから10年が過ぎた。事故の後、ウクライナは電力事情が良くないため、チェルノブイリ原発の3基の原子炉のうち、爆発しなかった2基を使い続けている。大事故につながる構造欠陥があることが判明したチェルノブイリ型の原子炉を使い続けるのはあまりに危険だ、と西欧各国が主張し、ウクライナは新しい発電所を作り始めたものの、ソ連崩壊後の資金難で、完成させることができないでいる。
西欧各国としては、再び事故を起こされて放射能を撒き散らされてはたまったものではない。そこで、西欧の呼びかけで、欧米日などG7(先進7カ国蔵相中央銀行総裁会議)諸国は、欧米の銀行団などと協調して、チェルノブイリ原発の閉鎖と引き換えに、工事が止まっている2カ所の原子力発電所を完成させるための資金や、他の発電所の設備更新などの用途として、合計18億ドル(約2000億円)をウクライナに貸すことを申し出た。そのうち中心となる4億ドルは、ソ連東欧の復興を手がけている国際援助金融機関のEBRD(欧州復興開発銀行)が融資することになっていた。
2月9日以来の数回にわたるフィナンシャル・タイムスの報道によると、EBRDはイギリスのサセックス大学に、ウクライナの電力需給状況と融資資金の使い方について調べるよう依頼した。ところが、2月19日に発表されたその調査の結果は、「ウクライナは、(原発をすぐに完成させねばならないほど)電力需給が逼迫していない。工事中の原発を完成させるより、エネルギー効率の悪い工場プラントや、都市にあるビル暖房システムなどの改良を進めていく方が良い。電力業界を民営化して経営効率を上げることも必要だ」というもので、EBRDの融資計画はやめた方がいいと受け取れる内容だった。ソ連崩壊後、ウクライナの国営企業の中には、操業を縮小しているところが多いため、電力需要が減っているのであろう。
これを受けてG7各国は、チェルノブイリ廃炉とリンクしているウクライナへの融資自体を見直す検討を始めたとみられている。当然、ウクライナ政府は不満で、今年7月までにG7が融資の実施を決めない限り、2000年以降もチェルノブイリの残る原発の稼働は続けるとの「脅し」を表明している。
さらに問題なのは、もしウクライナへの融資が実施されなくなった場合、ウクライナ以外の旧ソ連・東欧諸国に散在する26カ所のチェルノブイリと同型の原発(正式な型式は「VVER-440/230」)の閉鎖に対する支援も、今後は見送られる可能性が強く、第2、第3のチェルノブイリ事故が起きる可能性が残ることだ。
(ここまで引用)
こうした動きの背景にあるのは、西欧諸国が、アジア諸国に対抗できる経済的な国力をつけるため、通貨統合を口実にした財政縮小に動いていることだ。欧州各国政府にすれば、チェルノブイリ型原発は危険だが、欧州が貧乏な2流国家集団になってしまうことの方が、もっと深刻だという考えなのだろう。そして、ウクライナに金を出さない理由として、EBRDの厳しい調査結果が使われたとみられている。
EBRDは、チェルノブイリのほかにも、ブルガリアやリトアニア、ロシアのチェルノブイリ型原発の廃止に向けて、資金援助をしている。だが、事故直後には純粋に政治的な意味での援助をしていたEBRDは、今や、金を借りる前に節約しろ、と融資希望各国を叱りつける「世界の民生委員」(日本の民生委員は、おばあさんに対して「生活保護がほしいならエアコン外せ」と叱るという話だ)と化しているIMFと同様の、守銭奴系の組織となっている。
たとえば、スロバキア共和国にあるモチョース(Mochovce)原発も、建設途中で工事が止まっていたが、スロバキア政府は、これに改良を加えて安全度が増すよう設計を変更し、ドイツなど西欧の企業に発注して完成させることを計画した。チェコ政府はEBRDに支援を求めたが、EBRDから返ってきた返事は、「西欧企業への発注は金がかかりすぎる。しかも、スロバキア政府が電力価格を30%値上げする経営努力を行い、国内にあるチェルノブイリ型原発2基の運転を停止するなら、資金援助をしてもいい」というものだった。そんな厳しい条件は飲めないので、しかたなくスロバキアは隣国チェコの会社に発注したという。
冷戦中は、核兵器を作ることは覇権への潜在的な欲求だった。だから、平和利用と銘打っていても、実は、短期間で原子力発電所から核兵器の材料を取り出すことができるようになっていた。たとえば日本の場合、私の記憶に間違いがなければ、何年か前にIAEAの研究者が、日本は3カ月で電力用の原子力発電所から核兵器の材料を取り出すプラントを完成させることができるから、潜在的に日本は核兵器を持っているのと変わらない、とのレポートを発表している。ノーモアヒロシマ的な意識から、核兵器に反対する国民が多い日本でさえ、そうだった。
ところが今や、状況は変わったようだ。核兵器自体が無力化されたわけではないものの、世界の国々の多くは、もう核兵器は必要ない、と考えているように見受けられる。原子力技術が発達して小国でも扱えるようになり、大国が核兵器を誇示するのはむしろ世界情勢を悪化させ、世界の警察官を自認する米国にとってもマイナスだと判断され出しているのかも知れない。そして、政治家の関心が核兵器から遠ざかるとともに、金のかかる原子力産業自体が、国家のお荷物になりだしている。
たとえば、96年7月5日のフィナンシャル・タイムスによると、1950年から大量の国家財政を投入して原子力技術を持つことに力を入れてきたアルゼンチンは昨年、一転して、建設中1カ所と稼働中の2カ所を含む、すべての原子力産業を、丸ごと売りに出した。買い手として想定しているのは、米国や欧州、カナダなどの電力会社や投資銀行である。アルゼンチンが自国の原子力技術を核兵器に使うつもりがあったかどうか、軽々に推測できないが、少なくとも、国家の威信をかけて進めてきた原子力プロジェクトが、外国人に売り渡してもいいようなものになってしまったことは確実だ。
これはアルゼンチンが進めている「民営化」の一環らしいが、特に1970年代から稼働している最も古いアトウーチャ(Atucha)第1原発は、あと15年で廃炉にしなければならないので、買い手を探すのは難しいと思われている。