最近の世界の流れ 97年2月15日

黄書記亡命でうかがえる北朝鮮高官たちの絶望感
国際投資会社の投資配分の片隅に日本の不動産も加わる傾向
中国・新疆暴動に神経尖らす中国政府
チベットの指導者ダライラマの3月末台湾訪問が決まる
世界の毛皮を買いまくる中国人とロシア人
中国からクリントン政権に献金の疑惑
インドネシアでまた暴動


●黄書記亡命でうかがえる北朝鮮高官たちの絶望感


 北朝鮮の最高首脳の一人、朝鮮労働党の黄書記が日本からの帰国途中、北京で韓国大使館に亡命を申請した。黄書記は北朝鮮経済を開放すべきだとの意見を持っていた人で、経済開放を嫌う最高権力者、金正日書記に疎まれたため、身の危険を感じて亡命を決意したのだと報じられている。

 北朝鮮は今、一方で深刻な食糧不足などの問題を抱えて崩壊寸前の状態にある一方、北朝鮮の崩壊を防ぎたい米国が主導する外交交渉が続けられているという、綱渡り状態にある。その微妙な時期に、この亡命事件は何を意味するのだろうか。

 黄書記が本当に経済開放に反対されて金正日体制に絶望したのなら、米国がいくら頑張っても金正日=北朝鮮は体制を変えるつもりはなく、絶望した政府幹部の亡命が相次ぎ、最後は体制が倒されて終わる可能性もある。それが数ヶ月以内に起きる可能性すらある。

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●国際投資会社の投資配分の片隅に日本の不動産も加わる傾向


 国鉄清算事業団が保有する東京と大阪の土地購入者に、外国の投資会社が名を連ねた。東京・汐留貨物ターミナル跡地の広大な土地の入札では、日本の大手企業に混じってシンガポールのアルダニー・インベスツメンツという投資会社がコンソーシアム(共同事業者)に名を連ね、大阪・難波の入札では、コール・リアルエステートなど2社の米国の投資会社が入った。

 バブル経済の崩壊以来、東京や大阪のビル用地の価格は下がり続け、買い手がほとんどいない状態が続いている。旧国鉄のまとまった土地という好条件ではあるものの、外資系の投資会社が3社も入ってきたことは、急激な円安の影響も大きいものの、日本の不動産不況がそろそろ終わりつつあるのではないか、との見方につながっている。

 一方、国際的な投資機関の間では、一国の株や債券だけに投資するのではなく、発展途上国を含めた世界各地の証券や不動産などに幅広く投資する、国際的・多角的なポートフォリオ(投資配分)を行うことが流行っている。日本の不動産を買うことも、こうした動きの一環であろう。外資系企業が大々的に日本の不動産を買う動きにはつながらないだろうが、日本の商業地の所有者に外資系企業の名前が出ることが、だんだん多くなりそうである。

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●中国・新疆暴動に神経尖らす中国政府


 中国西部の奥地、イスラム教徒が過半数を占める新疆ウイグル自治区で、中国からの分離独立を叫ぶ暴動が起きた。昨年6月に続く動きである。中国政府が今、最も恐れているのが、新疆やチベット、内モンゴルなど、人口の大多数を占める漢民族以外の少数民族が住む地域で起きている、中国からの独立運動だといわれている。

 漢民族の不満は、生活水準が向上する経済発展という「金で釣る」ことで解消できるが、少数民族の不満は長年の漢民族支配に対する怒りがベースにあるので、金で解決できないからだ。新疆の独立運動は、アフガニスタンやタジキスタンで広がるイスラム原理主義の運動とも呼応しており、今後さらに強まると思われる。

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●チベットの指導者ダライラマの3月末台湾訪問が決まる


 新疆暴動と期を一にするかのように、チベット人も動いている。ダライラマの外交攻勢は昨年から続いており、台湾訪問は香港返還を前にした一つのクライマックスだろう。中国の治安維持からみると、香港返還は、香港の人々の民主化の動きが、中国大陸に持ち込まれる可能性が高まるということだ。

 だから中国当局は、香港返還までに、新疆やチベットの民族問題を解決することをめざし、去年から独立派の少数民族への圧力を強めた。かなりの人権侵害も報告されている。それが逆に少数民族の動きを先鋭化させ、「死んでも中国と戦う」などと考える若者を生み出すことになった。


●世界の毛皮を買いまくる中国人とロシア人


 2月13日のフィナンシャル・タイムスは、中国人とロシア人のバイヤーがミンクやきつねの毛皮を買いあさったため、最近アメリカのシアトルで開かれたオークションでは、落札価格が平均で15−20%上昇したことを報じている。ロシア人はミンク、中国人はきつねやアライグマを好むという。(ここまで引用)

 動物愛護団体の新たな標的が定まったという感じだ。中国やロシアでは貧富の格差が膨大なものになっており、毛皮をまとうのは、ごく一部の金持ち、しかも国有資産を私物化したり、手数料名目の賄賂をとって蓄財した金で、毛皮を買っているのではないかと推察できる。作者としては、動物の肉ばかり食って育ったくせに、いまさらヒステリックに動物愛護を叫ぶ欧米系の人々は好きではないが、「何が悪いんだ」と語気荒く反論しそうな、中国やロシアの毛皮愛好者の姿を想像するのも、なんだか暗い気持ちにさせられる。


●中国からクリントン政権に献金の疑惑


 米国のクリントン大統領が選挙戦を始めようとしていた1996年に、ワシントンの中国大使館筋が、クリントン大統領の支持基盤である米民主党全国委員会(DNC)に対して、不正な献金を行っていた可能性が強くなった。ワシントンポストが2月14日に特ダネとして報じたもので、米国の司法省がこの件の担当者を大幅増強したという。

 米国では、外国人や、外国で調達した資金を政治献金として受け取ることは、国家安全保障上の見地から違法になっており、疑惑の不正性はそこにある。この事件はもともと、元DNCの資金集めの担当者だった中国系米国人のジョン・ホァン氏が台湾系やインドネシア系の米国人の有力者たちから選挙資金集めを行ったが、その資金が米国内ではなく、台湾やインドネシアから来ているのではないか、との疑惑から発生している。ホァン氏は以前、インドネシアの華僑系財閥、リッポーグループで働いており、リッポーは中国とのつながりが深かった。(ここまで引用)

 ホァン氏がからむ事件に関しては、英文メディアでは昨年秋からいろいろ報じられていた。事件は複雑なので作者にも分かりにくいのだが、台湾と中国が、米国の対中国政策の先行きをめぐって、献金合戦をしているようにもみえる。第二次大戦のころから、台湾(中国国民党)は米国の政界に多額の献金を続け、それにより共産党の台湾侵攻を米艦隊の力で食い止めてきた。これに対して最近資金が貯まり出した中国は、台湾と米国のカネのつながりに横入りすることで、米国の態度を変えさせようとしている可能性もある。

 政界だけでなく金融界でも、今では米国債の半分近くを、台湾や中国などのアジア諸国の政府や金融機関が買っており、特に中国の米国債保有の増加が目立っている。米国の外交政策が、こうした動きから全く自由であるはずはない。世界支配の決定打は、もはやミサイルではなくカネになっているのである。


●インドネシアでまた暴動・スケープゴートは中国系国民


 昨年7月の野党メガワティ女史の一件以来、インドネシアでは次第に社会秩序が不安定になってきているが、昨年秋以来、ジャワ島の町シトゥボンド、タシクマラヤ、そしてボルネオ島の町の暴動に続き、2月初旬には、ジャワ島東部のレンガスロクという町で暴動が起きた。いずれの町の暴動も、イスラム教が軽視されたことに怒った住民が、金持ちの象徴である中国系住民の商店や仏教寺院、キリスト教会、役所や銀行などを焼き討ちして回ったというものだった。

 このうち最も最近起きたレンガスロクの暴動について、ニューズウイーク(英語版)2月10日号が伝えている。それによると、2月初旬のその日はまだイスラム教のラマダン(断食月)の期間中だったため、人々は日の出前に朝食をとらねばならず、モスクに住む少年たちが午前2時半に起床の合図である太鼓をたたき始めた。

 それがいつもより騒がしかったので、近所に住む中国系の老婆(中国系の大半は豚肉を食べられないイスラム教徒にならず、キリスト教徒である)がモスクに出かけて怒鳴ってたしなめたところ、少年たちは怒りだし、騒ぎを聞いて駆けつけたイスラム教徒の大人たちもそれに加わって、駐車中の自動車を倒し、商店のシャッターを壊して略奪し、壁に「イスラム教の力を思い知れ」「中国人をやっつけろ」などと書きなぐった。町にある3つのキリスト教会と2つの仏教寺院は放火された。老婆を含め、死傷者はいなかったという。

 こうした事件の背景には、人口の3%しかいない中国系の国民が、経済の80%を握っているというインドネシアの国情がある。また、貧富の格差は広がり、役人の腐敗がひどくなる傾向にある。このため、中国系資本と結託し、役人の腐敗を許している政府への批判も高まっている。中国系国民は、そうした矛盾のスケープゴートになっている。

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