国際通貨基金も中国には物言わず

1996年7月12日

 中国の悪口ばかりを書くつもりでこのホームページを開いたわけではないのだが、またも中国政府に対して暗澹とした気持ちにさせるできごとが起きた。

 米国ワシントンにある国際通貨基金(IMF)の本部に勤めていた中国人職員が、昨年12月に中国出張中に収賄の疑いで逮捕され、6月28日に懲役11年の判決を受けたのだが、その職員は無実の可能性が高い。同僚たちがIMF本部内で抗議の活動を行うなどしたのだが、IMF上層部としては大国になりつつある中国に慮って、何の行動も起こしていない。(IMFは世界各国の通貨を安定させるために作られた国際機関)

 この職員はホン・ヤンという名前で、IMFに入る以前の1993年、中国の中央銀行である中国人民銀行に勤務していた時に、10万元(約130万円)の賄賂を受け取ったとされた。IMFの同僚によれば、彼は無実であり、人民銀行に今もいる別の職員から濡れ衣を着せられたのだという。ホン氏は昨年12月、中国の経済政策を点検するためにIMFが毎年派遣している調査団の一員として中国に行った。

 ホン氏はもともと、そういった調査をする部署の担当ではなかったのだが、中国側からホン氏を調査団の一員として加えてほしいという要請があり、北京に行ったところ逮捕された。ホン氏は中国当局に「はめられた」可能性が強い。

 IMFの上層部は、ホン氏が収賄の本当の犯人であるかどうか判断できないため、中国に抗議することはできないと考えている。しかし、私は思うのだが、ホン氏が人民銀行に勤めていたころに本当に賄賂を受け取ったことがあるならば、中国側から調査団にホン氏を加えるよう要請があったときに、「中国に行ったら逮捕されるに違いない」と思い、IMFを辞職しても訪中を固辞したのではないか。逮捕されたら長い懲役刑になるのは目に見えているからだ。にもかかわらず、ホン氏はノコノコと中国に行ってしまった。逮捕は身に覚えのないことである可能性が強い。

 一方、中国当局はなぜ、ホン氏が犯人に違いないという人民銀行の関係者らの話を鵜呑みにして、国際機関に勤めるホン氏を中国に呼び寄せて逮捕するという、下手をすれば中国の国際社会での地位を危なくするかもしれない行為に出たのだろうか。もしかすると、IMFがどの程度、中国に対して強い態度に出てくるか、わざと試したのかもしれない。公式な抗議行動は何も起きそうにないから、中国の勝ちである。中国当局はIMFに対し、以前より強い態度に出ても大丈夫だと思っているだろう。

 INFは来年9月に開催予定の総会を、そのころには中国領となっている香港で開くことを予定している。IMFの内部には、中国に抗議する意味で、総会の場所を別の国に変更すべきだと主張しているが、通りそうもない。

 こういうことが続くとどうなるか。そのうちにたとえば、中国を訪問した日本の政治家が「南京大虐殺はなかったと思う」などと表明したら、そのまま身柄を拘束され、反革命罪で懲役を食らうことになり、そうなっても日本政府としては少し抗議するだけで、受け入れざるを得ない、ということにでもなるのだろうか。そして、文芸春秋やサンケイ新聞はギャーギャー書き立てるが、朝日新聞は「南京大虐殺はなかったなどと言う方が悪い」と書くのかもしれない。

 そこまでいかなくても、今回の事件は、日本が中国に貢ぎ物を献上していた唐や明の昔に逆戻りしていくのではないかと思わせるものがあり、暗澹とした気分にさせる。





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