田中宇の国際ニュース解説 他の記事を読む

熱き中南米を読み解く

  田中 宇

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 中南米は日本人にとって、心理的にも距離的にも最も遠い地域で、日本語のマスコミではあまり報道もされない。だが、中南米情勢を見ていくと、ロマンチックで情熱的だが腐敗もしているという、良くも悪くも人間的な人々の姿と、不思議な歴史の流れが見えてくる。以下の解説記事が参考になるだろう。


石油で世界を多極化する南米のチャベス
 【2005年11月18日】 ブッシュ政権は、ベネズエラのチャベス政権を転覆しようと2002年にクーデターを誘発し、チャベスは守勢に立たされていた。だが昨年後半に攻守の形勢が逆転し、チャベスはしだいにブッシュ非難の声を強める一方で、アメリカ側はチャベスに攻撃されても言い返さない傾向が強まった。この逆転の裏には、石油価格の高騰が存在していた。昨年後半、国際的な石油価格が上昇するとともに、チャベスは強気になり、アメリカはチャベスに言い返せなくなった。

フジモリの勝算
 【2005年11月15日】 ペルーのトレド政権は、支持率8%という不人気を挽回するため、チリとの間の海上の国境線を引き直す法律を作って国境問題を再燃させ、ナショナリズムを煽っている。これを受けてチリも、ペルーとの貿易交渉を打ち切るなど、両国の関係は急速に悪化した。フジモリが日本からチリに飛び込んできたのは、こうした新事態に陥った数日後のことだった。

南米のアメリカ離れ
 【2005年3月6日】 アメリカが1990年代に南米にやらせた「経済改革」が失敗したことは、人々が経済改革を推進する右派の政治家を嫌う傾向を招き、その結果、南米では次々と左派政権が生まれている。南米諸国は、アメリカに比べて経済力はかなり低いものの、アメリカが急速におかしくなっていることを考えると、南米を統合する構想や、チャベスの「ボリバル主義」が、壮大な空想であるとは言えなくなっている。

アメリカの世界破壊は政権交代しても続く?
 【2004年4月9日】 「ブッシュを大統領の座から引きおろせば世界は良くなる」という考え方が世界に広がっているが、アメリカ大統領選挙でブッシュの対抗馬になる民主党のケリー候補が打ち出したベネズエラのチャベス大統領への非難声明を見ると、ブッシュではなくケリーが大統領になったとしても、世界を故意に破壊しようとする今のアメリカの戦略はあまり変わらないかもしれない、と感じる。

麻薬戦争からテロ戦争へ
 【2002年11月5日】 米軍が冷戦終結とほぼ同時期に始めた「麻薬戦争」は、冷戦終結によって軍事力を必要とする場が激減し「失業」状態に陥る可能性が増してきていた米軍に、次の「仕事」を与えるという政治的な目的があった。だが911後の「テロ戦争」の開始により、軍事費は急増し、失業対策は必要なくなった・・・

復権する秘密戦争の司令官たち
 【2002年5月21日】 かつての秘密戦争の司令官たちがブッシュ政権に結集し、ポインデクスターが盗聴機関のトップに就いてから数日後、国防総省に、戦況を有利にするためにマスコミにウソの情報を流すことを任務の一つにした新組織「戦略的影響局」が作られていることがマスコミで暴露された。

ベネズエラとアメリカ
 【2002年5月9日】 チャベスの反米は、自国を含む中南米諸国をアメリカの支配下から解放したいという考えに基づいていた。そのために彼が使った一つの方法は「石油」だった。ベネズエラはOPECの中で、産油国が横並びで石油を減産して価格をつり上げることを提唱する勢力となった。

アルゼンチンの悲劇(2)
 【2002年1月17日】 支出を切り詰める必要がない国に切り詰めを迫り、その国の経済自体を破壊してしまうIMFのやり方は、1997年に東南アジアに対しても行われ、大混乱を巻き起こしたが、IMFはその後もやり方を変えず、アルゼンチンに対しても同じことを求めた。

アルゼンチンの悲劇
 【2002年1月14日】 2001年初めにトルコが通貨危機に陥ったとき、ブッシュ政権はIMFを通じて緊急融資を行った。トルコはイラクを攻撃する米軍に軍事基地を使わせており、アメリカの中東支配に欠かせない国だったが、トルコ経済が破綻すればイスラム原理主義政権ができる可能性があったから、すぐに緊急支援が行われたのだった。緊急支援をしてもらえないアルゼンチンは、中東から非常に遠いという地理的な自国の運命を恨むしかなかった。

メキシコを動かした先住民の闘い

 メキシコは覆面集団「サパティスタ」の話題で持ちきりだ。彼らは人口の25%を占める先住民(インディオ)の権利を守るゲリラ組織で、運動を平和的なやり方に切り替え、バスをチャーターして全国各地を遊説した後、首都へと凱旋した。彼らの戦略は、チェ・ゲバラに象徴される「正義のゲリラ」のイメージを喚起しつつ、世界的な「反グローバリゼーション運動」の中に自分たちを位置づけて国際的な支援も集めるものだった。【2001年4月2日】

捨てられた独裁者ピノチェト

 3月3日、拘留先のイギリスから祖国チリに帰国したピノチェト元大統領は、出迎えの人々を驚かせた。裁判に耐えられないほど健康を害しているとイギリス政府が認定されたのに、意外と元気だったからだ。イギリスが、1年半前は積極的に逮捕した彼を、その後ニセの診断書を書いてまで帰国させたくなった背景には、チリの選挙で左派陣営を勝たせる戦略があったのではないか。【2000年3月9日】

パナマ運河:興亡の物語

 この世紀末、香港やマカオが中国に返還される半面、パナマ運河はアメリカの手を離れ、代わりに中国や台湾がパナマに影響力を広げようとしている。アヘン戦争やペリーの浦賀来航から150年経って、ようやくアジアが太平洋で欧米勢と並ぶ存在になったと読み解ける。それとも、アメリカが不要になった航路の「お下がり」をアジア勢がもらい受ける、ということなのだろうか。【2000年1月6日】

遺伝子組み換え食品をめぐる世界大戦(ボリビア編)

 ボリビアのジャングルを切り拓いた日本人村、オキナワ村の農業経営には、国際競争の波が押し寄せていた。ブラジルやアルゼンチンで、遺伝子組み換え種子の大豆が栽培されるようになったからだ。これはアメリカの種子メーカー、モンサント社が開発したもので、除草剤がかかっても枯れない性質を持っている。【1999年10月28日】

遺伝子組み換え食品をめぐる世界大戦(ブラジル編)

 ブラジルの裁判所が今年6月「政府が安全基準を定めるまで、モンサントの遺伝子組み換え大豆の販売を禁止する」との判決を出したことは、世界中に影響を及ぼした。ブラジルは世界第2位の大豆生産国であり、アメリカ、アルゼンチン、中国、カナダなどの栽培国と、熾烈な価格競争を繰り広げてきたからだ。【1999年11月1日】

南米発、怪しげな世界通貨統合

 ブラジル通貨危機で悪影響を受けたアルゼンチンで、自国通貨を廃止して米ドルを通貨にする構想が浮上した。アメリカ側でも歓迎する動きがあり、これを機に中南米の通貨全体をドル化しようというアイデアもある。だがアメリカ当局は、この構想には消極的で、それには暗い理由がありそうだ。 【1999年7月26日】

スラム街出現の裏にうごめく人々

 ブラジル南部の町、クリチバ市郊外のスラム街「カンポ・ドス・ペラデイロス」は昨年10月、一晩で出現したものだった。スラム街とは、貧しい人々がだんだんと集まってきて形成されるものではなかったのか? 疑問を解くために現地を訪れると、スラム出現の背景には、一攫千金を目指すブローカーや交渉屋、そして政治家の影があった。 【1999年6月18日】

崩れるメキシコの国家体制

 メキシコでは、州知事や捜査当局が麻薬取引に関与したスキャンダルが次々と起きており、誘拐や強盗などの犯罪も増えている。背景には、1994年の通貨危機以来、政府がアメリカの銀行などから借りた金を返すため、緊縮財政をとらざるを得ず、貧しい人々が生活に窮するとともに、国家の資金力と指導力が低下し、犯罪を抑えられなくなったことがある。与党内では派閥争いも激しくなり、国の体制の根幹が揺らいでいる。【1999年4月12日】

中南米政治の仁義なき戦い・パラグアイ編

 南米のパラグアイでは、民主化とは、与党の派閥争いが激化することを意味していた。手段を選ばぬ資金集めや反対勢力に対する人権侵害が許されなくなり、かつてのような圧倒的な権力者が生まれにくくなったことが、背景にありそうだ。中南米ではメキシコやベネズエラでも、長く続いた与党支配体制が崩壊しつつある。【1999年4月9日】

南米に夢を求めた日本人(1)ボリビアで商売の道を極める

 1899年に最初の出稼ぎ者たちが渡航して以来、ペルーとボリビアの日本人の歴史は、今年で100周年を迎える。彼らは、どんな100年間を過ごしたのだろうか。1月下旬にボリビアとペルーを取材し、話を聞いた。第一回目は、1926年に15歳でボリビアへ渡って以来、商売に生き続けた末松健佑さん(88歳)の人生談を紹介する。【1999年2月2日】

南米に夢を求めた日本人(2)ペルーの荒地に実ったみかん

 福田美代子さん一家は、1935年に日本からペルーに渡航した際、ミカンやカキの苗木を船に積んで持参した。ところがアメリカに寄港中、検疫検査で没収されてしまった。「船長に頼み込んで船底の冷蔵庫に隠してもらい、何本かは没収されずにすみました。今ペルー国内にあるマンダリナ(みかん)とカキは全部、私たちが運んできた苗木が元になって、増えていったんです。特にカキは今でもペルーでは、うちの農場にある1000本が全てです」 【1999年2月18日】

南米に夢を求めた日本人(3)原生林を拓いて「日本」を作る

 アンデス山脈のふもと、ボリビアの亜熱帯平原の真っ只中に、2つの小さな「日本」が存在している。「サンファン」と「オキナワ」の2つの日本人移住地は、戦前の「開拓団」にも似て、日本が政策として、海外に日本の飛び地のような入植地を作る計画の一環として作られた。大規模な計画だったが、日本が農業より工業が重視される時代に入り、計画自体が過去のものとなっていった。【1999年4月30日】

ブラジル発の世界金融危機第3波が起きる?

 昨年夏にロシアの金融が崩壊して以来「次はブラジルが危ない」という不安が広がった。ブラジル政府はIMFの支援を受けて昨年11月に財政再建を開始し、一時は危機が去ったと思われていた。だがその後、再建計画が達成できない可能性が強まっている。通貨の切り下げなど、南米全体からアメリカ経済にまで打撃を与える事態の発生を懸念する声もある。【1999年1月7日】

キューバのキリギリスたちにロマンを教えられた話

 キューバの人々は、音楽が好きで行き当たりばったり。「アリとキリギリス」に出てくるキリギリスのようだ。「アリ」役の日本人旅行者は、キリギリスたちからビールやお金をせびられる。だが本来の物語とは逆に、アリはキリギリスから、それまで知らなかったロマンの存在を教えられるのだった・・・。筆者の夏休みキューバ旅行記。【1998年8月30日】

政治の潮流変わりゆくカリブ海の国々

 かつてカリブ海は、キューバ危機など米ソ対立の場だった。アメリカはカリブ海諸国への経済援助を惜しまなかったが、冷戦後は援助が減り、カリブの人々の不満が高まっている。そんな中、キューバは自国もソ連に見捨てられて苦しい中で、周りの国々国に向けて「貧者の一灯」的な援助を増やしており、カストロ議長の評判が高まっている。【1998年8月7日】

「民主化」「自由経済」とともに世界を汚染する麻薬問題

 1キログラム2000ドルというコロンビアでのコカインの出荷価格と、1キロ6万ドルというアメリカでの末端価格との差額5万8000ドルのうち、コロンビア側の組織に入るのは1万5000ドルだけだ。3500ドルは税関係官の買収など「越境費用」に使われ、残る約4万ドルはアメリカの麻薬組織に入ってしまう。1998年6月11日】

50年たって暴かれるナチス財宝の謎・南米編

 ブラジルの銀行に眠る5億円の財宝は、ナチス再興のための隠れ資金だったのか?。ナチスの財宝を暴こうと、徹底調査を続けるユダヤ人団体は、当時のアルゼンチン政府がナチスの亡命に手を貸したことも攻撃している。「エビータ」の顔にも泥が塗られかねないのである。【1997年12月6日】

国家の威信に必要なくなった原子力産業のたたき売り

 アルゼンチンは1950年から、原子力技術に巨額の国家財政を投入してきた。だが昨年に方針を大転換し、建設中1カ所と稼働中の2カ所を含む、すべての原子力産業を、丸ごと売りに出した。国家の威信をかけて進めてきた原子力プロジェクトは、今や世界中で叩き売り状態だ。しかもアルゼンチンの場合、あと15年で廃炉にしなければならない原発もあり、買い手を探すのは難しい。【1997年2月22日】

カトリック教会との仲直りにみるカストロの世界戦略

 カストロ議長のキリスト教に対する融和策は、マイアミの反カストロ派キューバ人の力を弱めることが目的の一つだ。欧米社会では、中世にイスラム教徒から聖地エルサレムを奪回しようとした十字軍以来、今でも「正義」と「キリスト教」が密接につながっている。そのことが、このイメージ合戦の背景にある。【1997年1月30日】

フジモリ大統領の光と陰

 ペルーのフジモリ大統領は、シンガポールのリー・クアンユー元首相や、マレーシアのマハティール首相のような指導者を目指しているといわれる。ワンマン権力者ながら、積極的な経済政策により、社会を貧しさから解放し、豊かな国民生活を実現する「アジア型」リーダーを目指したのである。その試みはこれまで成功してきたのだが、最近になって陰りを見せ始めた。【1996年12月24日】



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