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「田中宇の国際ニュース解説」2005年の記事一覧


これより後の記事(2006年の記事)

イスラム過激派を強化したブッシュの戦略
 【2005年12月28日】「中東民主化」は、うまくやれば、アメリカとイスラエルにとって傀儡政権を増やせるので、ブッシュが2002年に中東民主化の戦略を打ち出したとき、イスラエルも米政界も賛成した。しかしその後、中東民主化がイスラム過激派を助長する結果になると「ブッシュは頑固な信仰に基づいて中東民主化をやっており、側近の忠告も聞かない」という話がまことしやかにマスコミに流され、イスラエルの要請は無視されている。これは、巧妙なイスラエル潰しの戦法であると思える。

ホロコーストをめぐる戦い
 【2005年12月20日】 ホロコーストがイスラエルを支援するための理論として喧伝され始めたのが1970年代だったということは、現在のアメリカの政治闘争につながる話である。アメリカのユダヤ人の間で、イスラエルを支持するシオニズム運動が熱烈に始まり、多くのユダヤ系アメリカ人がイスラエルのパレスチナ占領地内に移住して「入植運動」を開始し、右派政党リクードが結成されたのが70年代である。アメリカのシオニストの中に、ベトナム反戦運動で打撃を受けていた軍事産業の再生戦略に貢献することで、米政界の中枢に入ろうとする動きが起きたのも70年代である。この動きをしたのは、その後「ネオコン」と呼ばれるようになった人々である。

米軍のイラク撤退
 【2005年12月13日】 米国内の反戦気運が高まり、新兵募集もとどこおり、もう米軍はイラクで従来の駐留兵力数を維持できない。米政府は、新生イラク軍を強化できなくても、できたことにして歪曲情報を流し、米軍撤退を実施するだろう。イラク軍兵士の大半は給料がもらえるから応募しただけで、ゲリラと戦う気がない。米軍が撤退したらイラク軍は崩壊し、アメリカが作った政権も倒されかねない。米政府は地上軍の撤退後、空爆を中心に戦いを続行するかもしれないが、その場合、誤爆などで戦争はますます凄惨になる。

新しい中国包囲網の虚実
 【2005年12月8日】 日本は、中国包囲網に参加したはずが、中東で無駄金を使わされるという外交的詐欺に遭いかねない。その原因は、日本の外交を考える外務省、学者、記者などの知識人が、自分の頭で世界情勢を分析せず、アメリカの高官や学者、記者が発する言論を、絶対の真実として信じてしまうという「知的対米従属」に長く陥っているからである。権威あるアメリカ人がどのように言っているかを正確に把握することだけが重視される、悪しき「翻訳主義」である。

政権転覆と石油利権
 【2005年12月6日】 リビアのカダフィ政権は、アメリカがネオコンの戦略に基づき、イラク、イラン、サウジアラビアといった、イスラエルの潜在敵であるペルシャ湾岸の産油国に対して政権転覆を試みる際に、代わりの石油供給源として、アメリカから存続を許された。ナイジェリアなど西アフリカや、アゼルバイジャンなど中央アジアの油田も、ペルシャ湾岸の代用として有望だと、米政権の中枢に陣取ったネオコンから提案されていた。しかし、代替地を用意する戦略はうまく機能せず、石油価格の高騰を招いた。

アメリカの戦略を誤解している日本人
 【2005年11月29日】 アメリカは、自国の負担軽減のため「戦後60年、もう日本を信頼しても良い時期に来ている。日本に軍事的・外交的な自由裁量を与え、防衛技能を日本に教える施設共用のプロセスを経たうえで、在日米軍を撤退させる」と考えている。アメリカは、もう日本に従属を求めていないし、中国包囲網を強化する方向にもない。これらは、多くの日本人が思い込んでいる誤解である。

「中国・胡錦涛の戦略」が英語訳中国語訳されました

日本の孤立戦略のゆくえ
 【2005年11月24日】 小泉首相の靖国参拝は、暫定的に日本を東アジアで孤立させることで、米軍の撤退に対応できる新体制を日本に作ろうとする「暫定孤立戦略」であると考えられる。この戦略は、日本の体制を、アメリカの庇護のもとにあった戦後体制から脱却させるためであり、その転換のプロセスが一段落したら、役目を終えることになる。

石油で世界を多極化する南米のチャベス
 【2005年11月18日】 ブッシュ政権は、ベネズエラのチャベス政権を転覆しようと2002年にクーデターを誘発し、チャベスは守勢に立たされていた。だが昨年後半に攻守の形勢が逆転し、チャベスはしだいにブッシュ非難の声を強める一方で、アメリカ側はチャベスに攻撃されても言い返さない傾向が強まった。この逆転の裏には、石油価格の高騰が存在していた。昨年後半、国際的な石油価格が上昇するとともに、チャベスは強気になり、アメリカはチャベスに言い返せなくなった。

フジモリの勝算
 【2005年11月15日】 ペルーのトレド政権は、支持率8%という不人気を挽回するため、チリとの間の海上の国境線を引き直す法律を作って国境問題を再燃させ、ナショナリズムを煽っている。これを受けてチリも、ペルーとの貿易交渉を打ち切るなど、両国の関係は急速に悪化した。フジモリが日本からチリに飛び込んできたのは、こうした新事態に陥った数日後のことだった。

イスラエルの綱渡り戦略
 【2005年11月11日】 アメリカが中東民主化戦略を貫き、自滅的な強硬路線を続けている限り、中東では、反米・反イスラエルのイスラム過激派の勢力が強まり、ハマスを支持するパレスチナ人も増える。シャロンの目標は、イスラエル周辺地域を安定させ、疲弊したイスラエル経済を立て直し、アメリカの中東撤退に備えることだろうが、目標達成は難しい。イスラエルは、聖書の預言どおり消滅するかもしれない。

足抜けを許されないイスラエル
 【2005年11月8日】ライス国務長官らは、イラクが泥沼化して「中東民主化戦略」が明らかに失敗だと分かった後も「イラクの次はシリアやイランを政権転覆し、中東民主化を続ける」と言い続け、中東の混乱と反米・反イスラエル感情を拡大しているが、この無茶苦茶な強硬作戦の目的の一つは、アメリカの失敗をイスラエルのせいにするとともに、中東で反イスラエルの気運を故意に高め、イスラエルを弱体化させることかもしれない。

ホワイトハウス・スキャンダルの深層
 【2005年11月1日】今後、機密漏洩事件の捜査の進展によっては「ニセの契約書を使って米軍にイラク侵攻させたのはネオコンである」ということが、アメリカの公式見解になっていく可能性がある。この事件は、レーガン政権時代の「イラン・コントラ事件」と同じ意味を持つかもしれない。

中国・胡錦涛の戦略
 【2005年10月25日】・・・なぜ中国政府は、欧米の新聞に「中国は崩壊しそうだ」と書かれるような発表をわざわざ行うのかと思っていたら、最近その謎が解ける出来事があった。中国の胡錦涛政権が、10月中旬に開いた共産党の代表者会議(5中全会)で、これまで大都市の経済を中心に政府がテコ入れしていたのを転換し、今後は農村経済へのテコ入れを強化するという「5カ年計画」を決定したのである・・・  この記事の英語訳中国語訳

アメリカの機密漏洩事件とシリア
 【2005年10月18日】 アメリカの情報漏洩スキャンダルの本質は、米中枢の慎重派が好戦派を追い出し、イラクからの早期撤退や、財政赤字の拡大の阻止などを行って、アメリカが自滅するのを防ごうとする動きの一つである。こうした動きがあることを踏まえつつ眺めると、シリアやイランとアメリカとの対立をめぐるいくつかの話が、より深い意味を帯びて立ち現れてくる。

シリアの危機
 【2005年10月15日】 アサドの息子たちが無茶をして、古参の側近のアドバイスも聞かなくなっている、という話を拡大解釈していくと、バッシャールの弟や従兄弟らは、ラフードを大統領に再選させ、その結果反シリアに回ったハリリを暗殺し、これらの動きの全体に対して苦言を呈し続けたカナーン内務相をも自殺に追い込んだ(もしくは殺した)という推論になる。だが、ブッシュ政権がイラク侵攻以来、次はシリアを潰したいというメッセージを発し続けていることを考えると、この筋書きはアサド家にとってあまりに自滅的で馬鹿げた選択である。

日本:脱亜入欧から親米入亜へ
 【2005年10月4日】 欧米の方で世界を多極化してアジアを中心の一つに格上げしようとする動きがあるなら、日本がアジアを軽視し続ける必要はない。100年前に欧米が隆々とする一方で清朝中国が衰退して敗北し続けた時代には「脱亜入欧」が適していたように、アメリカが自滅して中国が勃興する傾向が続くなら、今後の時代には「脱米入亜」が適している。まだアメリカは復活する可能性があるし、いきなり「脱米」を宣言するとアメリカの反撃が怖いので、しばらくは「親米入亜」を掲げておけばよい。

不利になる日本外交
 【2005年9月30日】 北朝鮮をめぐる6カ国協議の大譲歩に象徴されるように、アメリカの外交的な裁量はかなり低下している。そのあおりで日本も、共同声明で北朝鮮との国交正常化に努力すると約束する一方で「拉致問題は解決済みだ」とする北朝鮮側の主張を黙認しないと国交正常化交渉を進められないという不利な立場に置かれている。

米英を内側から崩壊させたい人々
 【2005年9月27日】 ブレア首相は、自らが臨時的に欧米協調体制の中心になり、アメリカと独仏やオーストラリアなどの間を改めて取り持つ動きをしようとした。だが、そのとたんに7月7日のテロ後の混乱や誤認殺害事件、イラクで英軍が留置所を襲撃する事件などが起こり、ブレアは世界を主導する前に、国内やイラクの被占領民から湧き起こる非難に対処せねばならなくなった。ブレアが窮地に陥ったのは、イギリス軍の特殊部隊や諜報機関の中に、未必の故意と思える失態を行う勢力がいたからである。

北朝鮮6カ国合意の深層
 【2005年9月22日】 なぜブッシュ政権は、北朝鮮に対する無条件の譲歩を行うのだろうか。なぜ今の時期に急いで譲歩する必要があるのか。この疑問に対する私なりの答えは「今後、アメリカはイランやシリアに侵攻するつもりで、その際に北朝鮮が煽られて無茶なことをしそうなので、それを事前に抑制したのではないか」というものだ。

アメリカ「カトリーナ後」の孤立主義と自滅主義
 【2005年9月18日】 911を機に始まった「テロ戦争」は当初、ブッシュ政権を強化し、共和党内で強い「軍事産業」や「イスラエル」にとってプラスになるような動きとして始まりながら、結局のところブッシュ政権は窮地に陥る一方で「多極主義者」が最後に全部の利得を持っていってしまうという経緯になっている。ハリケーン「カトリーナ」をめぐる被害の経緯も、これと似ている。

欧米中心の世界は終わる?
 【2005年9月6日】 欧米や日本といった先進国は、すでに経済的にかなり成熟しており、この先あまり経済成長が望めない。温暖化対策が途上国の経済発展の足かせとして用意されていることを見ると分かるように、今後も欧米中心の世界体制を続けようとすることは、世界経済の全体としての成長を鈍化させる。これは、世界の大資本家たちに不満を抱かせる。欧米中心主義を捨て、中国やインド、ブラジルなどの大きな途上国を経済発展させる多極主義に移行することは、大資本家たちの儲け心を満たす。

地球温暖化問題の歪曲
 【2005年8月27日】 地球温暖化をめぐる議論は、多分野にわたって諸説が乱立している状態だ。しかも気象学は、経済学と並んで不確実性が高いので「今後さらに温暖化が進むに違いない」と断言することはできないはずである。にもかかわらず、英米のマスコミの最近の記事は「地球は異常に温暖化しているということで、すでに大多数の専門家の間で意見が一致している」とさらりと書いているものがよくある。これは間違いであり、政治的な意図を持った記事であると考えられる。

政治の道具としてのテロ戦争
 【2005年8月23日】 ブッシュ政権内でテロ戦争を永続させたい勢力の戦略として最も強力なのは「もう一度、米本土でテロを起こす」ということだ。米政界では最近、有事体制がどんどん強化されており、次に大規模なテロが米本土で起きたら、それを引き金に、アメリカの政治体制は、ホワイトハウスと国防総省が圧倒的な権限を持つ戒厳令的な独裁状態に移行することが、ほぼ確実になってきている。911以後、ホワイトハウスと国防総省の権限はかなり拡大したが、それがさらに強化されることになる。

アルカイダは諜報機関の作りもの
 【2005年8月18日】 ・・・トルコ警察の担当者は、アルカイダの幹部を尋問するのが初めてだったので面食らったが、当局の内部で情報をすりあわせてみると、アルカイダの幹部がアメリカなどの諜報機関のエージェントでもあるという話は、よくあることだと分かった。トルコのテロ専門家は「アルカイダという名前の組織は存在しない。アルカイダとは、テロ戦争を永続できる状況を作ることを目的としてCIAなどの諜報機関が行っている作戦の名前である」と述べている。

世界の変化に追いつくための解散総選挙
 【2005年8月10日】 東アジア共同体への日本の協力を必要としている中国や韓国は、日本の政権が代わったら、再び戦略対話を申し入れる動きをとるだろう。総選挙で誰が勝っても、次の日本の政権はおそらくそれに乗るだろうから、今後は日本と近隣諸国との関係は改善されていくと予測される。今回の解散総選挙は、日本が世界の多極化の動きに追いつくための契機となるだろう。

アジアでも米中の覇権のババ抜き
 【2005年8月3日】 アメリカのライス国務長官がASEAN地域フォーラムを欠席し「東南アジアは中国やインドにあげますよ」というメッセージを発したのに対し、中国やインドは「いやいや、それはご遠慮いたします」とばかり、自分たちも逃げ出した。

朝鮮半島和平の可能性
 【2005年7月28日】 もはやアメリカが脅威でない以上、金正日としては、6カ国協議に参加する必要がない。にもかかわらず、今回北朝鮮が6カ国会議に再参加したということは、何か満足できる条件をアメリカから提示されたに違いない。その条件とは何だろうか。一つありそうなのは「北朝鮮が核兵器開発を破棄したら、米軍が韓国から撤退する」という交換条件である。

怪しさが増すロンドンテロ事件
 【2005年7月19日】 911事件に対する米当局のやり方は、国内を「戦時体制」に移行させることで、マスコミに肝心なことを何も報じさせない荒っぽさだったが、今回の英当局はもっと巧妙だ。しかし、事件から2週間たって、英当局の発表には作り話が混じっているのではないかという疑いが、しだいに強くなってきた。米の911、スペインの311、そして今回のイギリスのテロと、欧米先進国で起きた3つのテロ事件はいずれも政治的に利用され、もはや「アルカイダ」とは、米英などが政治的な企てのためにテロをさせる道具と化した感がある。

イラクを放棄しそうなアメリカ
 【2005年7月16日】 米軍は、来年初めまでに、イラクの18州のうち14州から撤退し、その後の治安維持はイラク人の軍隊や警察に委譲する計画を立てている。ブッシュ政権は、今年末にイラクに正式な政府ができることを契機に、イラクの政権交代が一段落したとみなし、成功裏に撤退したといえる状態を目指すものと考えられる。だが、アメリカが出て行くのと交代に、イランがイラクに接近している。イランの背後には中国やロシアが控えており、イラクの石油利権は、これらの非米同盟諸国に奪われかねない。

ロンドンテロ:国際協調派のための911
 【2005年7月8日】 7月7日のロンドンのテロに対するブレア政権の主張は、911を機に当初アメリカの国際協調派が発動しようとした対応と似ている。911は単独覇権派を強化したが、今回のテロは国際協調派を強化しそうである。ロンドンのテロを機に、テロ戦争は立て直され「バージョンアップ」されるのかもしれない。

世界を揺るがすイスラエル入植者
 【2005年7月5日】 イスラエルの入植運動の特長は、イスラエルの軍や政界で強い影響力を持つようになった入植者たちが、その政治力と二重国籍性を活用し、もともとの出身地アメリカの政界でも影響力を拡大し、米政府を動かすパワーによって、イスラエルでも政治力をさらに拡大したことである。入植者(イスラエル右派)が米政界で力を付けたのは、AIPACなどのユダヤ系政治団体を活用し、政治力を資金に換え、資金を政治力に変質させる手法をやって成功したからだった。

イスラエルとロスチャイルドの百年戦争
 【2005年6月22日】 「パレスチナ」を最も大きな範囲でとらえると、今のシリア、レバノン、ヨルダン、イスラエルの4カ国を包含する地域になる。近くには、今はイラク領になっているモスルとキルクークの大油田地帯がある。これらのすべてをイスラエルに与えると、イスラエルは石油利権を持った強国となり、ロスチャイルドを脅かす存在になる。そのため、ロスチャイルド系のサイクスとピコが秘密協定を結び、パレスチナを仏領と英領に分断したうえで「ユダヤ人の国を作れるパレスチナとは、英領の方だけを指している」という話に持っていき、イスラエルの建国範囲を狭めた。

行き詰まる覇権のババ抜き
 【2005年6月15日】 レーガン政権は、昔の覇権国家が最重要と考えていた交通網や通信網を民営化し、欧州や日本などにも民営化を求めた。競争原理が働き、新手の航空会社、通信網などが世界中に作られ、冷戦も終わって世界が単一市場になった。覇権に基づく必要なく、情報力や技術力があれば世界市場で儲けられる時代となった。だが同時に、単一市場となった世界の安定を誰かが守らねばならない状態は残った。かつて皆が求めた覇権は、今や大国の義務として、重荷になった。アメリカは、覇権の分散のために、EUや中国の影響力拡大を誘発する必要に迫られた。

否決されたEU覇権
 【2005年6月11日】 EU市民の多くは、独仏首脳を中心としたEUの中枢勢力が、EUをアメリカに対抗できる世界的な覇権勢力に仕立てようとしていることに、警戒感や違和感を抱いている。EU諸国の多くは、長期の経済不振に悩み、失業率も高い。世界の中でEUを強くすることにばかり興味を持ち、EU市民の生活のことを忘れているように見えるシュレーダー独首相やシラク仏大統領に対し「世界覇権なんかどうでもいいから、先に経済や雇用を何とかしてくれ」という怒りの爆発が、フランスやオランダの国民投票でのEU憲法の否決だった。

フィリピンは救われるか
 【2005年6月7日】 フィリピンが失敗国家に転落させられ、米軍とテロ組織だけが「活躍」する地域になることは、アロヨ政権もミンダナオ島のゲリラMILFも、東南アジアの他の国々も、中国も望んでいなかった。そのため今年に入り、アメリカの意向にそむいて、フィリピンを安定化させるいろいろな動きが出てきた。その中の一つが、イスラム諸国の支援を受けて行われているミンダナオ和平交渉の進展だった。中国からは4月末に胡錦涛主席がフィリピンを訪問して経済支援を決め、中比間の軍事交流も始まった。

ブッシュの米軍再編の理想と幻想
 【2005年5月31日】 このままだと、膨大な予算を何年もつぎ込み、従来型の世界の米軍基地を大幅縮小した後になって「未来型戦闘システム」や「ミサイル防衛システム」が、実は役に立たないことが判明する、という事態が予測される。ブッシュが頑固に「軍のハイテク化さえ成功すれば、アメリカは永遠に世界を支配できる」という幻想を抱き続けていることが、米軍の力を自滅的に落としかねない状況になっている。

短かった日中対話の春
 【2005年5月24日】 4月23日のジャカルタ会談で始まった日中対話の動きは、ちょうど1カ月後の5月23日、訪日していた中国の呉儀副首相が小泉首相に会う直前に突然帰国したことで、急にしぼんでしまった。中国側の真意は、小泉の個別の発言が問題なのではなく、日本が成り行き上、中国との戦略対話をすることにしたものの、できればやりたくないと思っていることに中国側が気づき、続けても意味がないので、打ち切りにすることにしたのだと思われる。

台湾政治の逆流(2)
 【2005年5月10日】 胡錦涛は、台湾という魚を、湾の中の養殖場に閉じ込めて生かしておきたい方針であると感じられる。魚が海に逃げていかないよう「反分裂国家法」という「仕切り」を作る一方、魚が最小限泳いで生きていける生け簀的な政治空間を「一中各表」の枠組みとして与えている。中国側が無理なく台湾を併合できる日がくるまで、台湾を生け捕りにしておこうという戦略である。

台湾政治の逆流
 【2005年5月7日】 反分裂国家法の制定によって、台湾の世論は反中国の傾向を増すのではないか、陳水扁もその民意に乗って再び独立の方向に戻るのではないか、と一時は予測されたが、その読みは間違っていた。アメリカの後ろ盾が失われている以上、もはや台湾の指導者たちには、独立の方向に戻ることが選択肢として残されていなかった。

サウジ滞在記(3)911の功罪
 【2005年4月26日】 言論統制があるサウジでは、国内で銃撃戦や爆破事件が起きても、その背景や犯人像について詳細に報じられることが少ない。人々は、事件の背景が分からないことに慣れている。だから911事件が起き、その責任をアメリカからなすりつけられても、おかしいなと思って執念深く調べる土壌がないので、濡れ衣を容認してしまっている。とはいえ911はサウジ人の心情に影を落としている半面、サウジ経済に思わぬ好景気をもたらしている。

アメリカの衰退と日中関係
 【2005年4月20日】 欧米諸国は、人民元の為替を上昇させることで中国人の国際的な購買力を高め、アメリカの2億人の購買力が飽和した分を、中国沿岸部の2億人の購買力(そしていずれは中国全土の13億人の市場)で補うことで、世界経済を回して行こうとしている。だが、日本人にはそれが見えていない。

サウジ滞在記(2)服装にみる伝統パワー
 【2005年4月7日】 リヤドのサウジ人の多くは、男女問わず、イスラム教の信仰心が非常に強い。女性が顔自体をベールでおおうことは「イスラム教に基づいた決まりではない」として守らなくても良いと考える人もいるが、髪の毛をベールでおおうことは、イスラム教に基づいた決まりなので、ほとんど誰も破りたいと思っていない。

サウジアラビア滞在記(1)
 【2005年3月29日】 リヤドに来てまず感じたことは、人々の生活が物質的に豊かであることだ。多くの市民は複数台の自家用車を持ち、フィリピン人など外国人のお手伝いさんを雇っており、インド人などの運転手を雇う市民も多い。あるサウジ人は「他の国だったらメードや運転手として働いているような人々まで、ここではメードや運転手を雇っている」と、冗談交じりに言っていた。

カナダもアメリカ離れ
 【2005年3月17日】 カナダは、アメリカとの関係を弱める方向に動き始めている。ミサイル防衛計画からの離脱を表明するのと同時期に、カナダ政府は空前の軍事費増加を議会に提案した。ミサイル防衛から離脱する代わりに、自前の防衛力を強化することにして、カナダ軍の装備や技術を増強するための予算である。

基軸通貨でなくなるドル
 【2005年3月15日】 巨額のドル備蓄を持っている日本、中国、韓国など東アジア諸国の当局は、ドルを真っ先に投げ売りしてドル相場を崩壊させたとアメリカから非難されるのは困るが、かといって他国がドルを売り逃げる中で、自国だけが価値の下がったドルを保有し続けるというババつかみも避けたい。アジア諸国はドル売りの機会をめぐり、横にらみの状態になっている。

南米のアメリカ離れ
 【2005年3月6日】 アメリカが1990年代に南米にやらせた「経済改革」が失敗したことは、人々が経済改革を推進する右派の政治家を嫌う傾向を招き、その結果、南米では次々と左派政権が生まれている。南米諸国は、アメリカに比べて経済力はかなり低いものの、アメリカが急速におかしくなっていることを考えると、南米を統合する構想や、チャベスの「ボリバル主義」が、壮大な空想であるとは言えなくなっている。

中台関係と日本の憲法改定
 【2005年3月1日】 日本政府には、中国や韓国、北朝鮮と対立しなければならない特段の事情でもあるのだろうか、と思っていたところ、国会で出てきたのが、日本国憲法改定のために必要な国民投票を行う構想であった。国民投票を成功させるには、日本周辺の脅威が大きい方が好都合だ。小泉政権は、憲法9条改定のために、周辺諸国との関係を悪化させる方向へと事態を微妙に動かしてきたのだと思われる。

沖縄からフィリピンのやらせテロ戦争に転じる米軍
 【2005年2月23日】 フィリピンの軍と政府は、テロ組織アブ・サヤフを裏から助け、ミンダナオ地域の人口の過半数を占めるイスラム教徒たちが、キリスト教系の中央政府に対して自治を求めるのを弾圧する口実を作っている。そして、米軍もそれに協力することで「永遠のテロ戦争」を演出している。

北朝鮮の核保有宣言と日米
 【2005年2月22日】 北朝鮮の核保有宣言について、アメリカからの政権転覆攻撃を招く自滅行為だと見る解釈も多いが、実際にアメリカがその後とった行動は、北朝鮮に「6カ国協議の場に戻ってくれ」と説得することを中国に頼む、ということだった。アメリカはもはや、北朝鮮が核保有国になっても、軍事攻撃など強行策によって止めるつもりはなく、北朝鮮の問題は中国を中心とする周辺国に任せ続ける方針であることが、これで確定した。

ネオコン戦略の復活
 【2005年2月16日】 ブッシュ大統領は2期目の就任演説で、ネオコンの戦略である「世界民主化」の意義深さを得々と語ったが、世界民主化作戦の第1弾として行われたイラク侵攻が大失敗し、イラク人の大半がアメリカを憎む状況になっていることについて、ひとことも触れなかった。第1弾のイラクが失敗したのに、その教訓を全く踏まえずに第2弾のイランに進撃するのは奇妙である。

上海ビジネスの世界をかいま見る
 【2005年2月1日】・・・このナイトクラブには上海市政府などの中国側の役人も接待されてやって来る。上海市政府に渡りをつけたい台湾商人は、民進党に頼むとこの店に出入りする人脈から共産党のお偉方を紹介してもらえる。接待に使うお店は繁盛し、ビジネスが成功すれば共産党に賄賂が入り、民進党には献金が入る。みんなハッピー、というわけだ。

600年ぶりの中国の世界覇権
 【2005年1月29日】 アメリカの多極主義者は中国を世界の覇権国の一つに持ち上げたいようだが、中国はまだ覇権国になるには早い。農村の問題や経済バブル、法治制度の未整備など、国内問題に注力しなければならない段階なのに、世界の事情がそれを許さない。中国政府の本音としては、アメリカが衰退した後のアジア地域の安定策について、日本に協力してもらいたいはずである。

実は悪くなかった「悪の枢軸」
 【2005年1月25日】 ブッシュ政権はイラク、イラン、北朝鮮の3カ国を「悪の枢軸」と呼び、これらの国々は大量破壊兵器を開発してアメリカを攻撃しようとしているので、場合によっては先制攻撃する必要があると発表した。イラクについては、大量破壊兵器を開発していなかったことが明らかになったが、北朝鮮とイランに対しても、アメリカはこれらの国々が脅威だと主張するためにウソをついている可能性がある。

北朝鮮崩壊の可能性を分析する
 【2005年1月18日】 韓国と中国が支援している経済自由化が軌道に乗れば、北朝鮮が崩壊する可能性は低くなり、逆に経済自由化に失敗すれば、政変が起きやすくなり、崩壊の可能性が高くなる。政治面では、今のところ金正日政権が危機に瀕している兆候はないので、経済自由化が成否のカギである。自由化が成功するかどうかは、今年中にある程度分かるだろう。

経済発展が始まりそうな北朝鮮
 【2005年1月13日】 北朝鮮の山間部などでは、飢餓状態の人がかなりいるのは事実だろうが、その一方で、都会では経済自由化の恩恵を受ける人も増えている。平壌市内では、夜遅くまで開いているレストランや商店が増え、市内を走る自家用車の数が増え、あちこちに外国製品の広告看板が立つようになった。北朝鮮経済のここ2−3年の変化は、それ以前の50年間の変化よりも大きいといわれる。韓国の統一相は、今年末までには北朝鮮の人々の間に経済市場主義の考え方が定着すると予測している。

アメリカの敗戦
 【2005年1月5日】 アメリカはすでにイラク人から徹底的に嫌われており、もはやイラク人に好かれることは無理だ。この戦争は、もうアメリカの勝ちで終わることはない。アメリカの敗北はすでに決定的で、負けを認めるのが早いか遅いかという問題が残っているだけである。負けを認めるのがあとになるほど、アメリカは国力を無駄に消耗し、世界の覇権国としての地位を失う傾向が強まる。


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